2002年7月8日(月)「しんぶん赤旗」
自民、公明、保守の与党三党などが五日の衆院総務委員会で一部「修正」のうえ可決した郵政関連四法案。政府・与党は九日の衆院本会議での採決を狙っています。改めて法案の問題点をみてみましょう。(佐藤高志記者)
「(郵政)改革の第一歩」。小泉純一郎首相は五日の衆院総務委で、今回の法案について強調しました。首相が「改革の本丸」とする郵便貯金、簡易保険の分野を大手金融機関に明け渡すため、その風穴を開ける「第一歩」にするというのです。
四法案のうち信書便法案と同関係整備法案は、ポストの数など一定の条件を満たせば、はがきや封書の配達などの郵便(信書便)事業に民間企業が全面参入することを初めて認めるものです。ところが、唯一全面参入を希望していた宅配業者最大手のヤマト運輸は、法案が閣議決定された時点で参入を断念しました。
このため政府は、これまで「信書」としてきたダイレクトメール(DM)などの分野を「信書」の定義から外し、貨物扱いにすることで、民間企業の無条件参入に道を開きました。
衆院総務委員会の採決の直前には、「信書の定義に関する政府の考え方」を同委理事会に提出(三日)。クレジットカードや地域振興券などを「信書」から外し(図)、これまでの政府の解釈を百八十度転換しました。
DMについても「多数の者に差し出されることをもって信書に当たらないものとは考えられない」としつつ、「その内容が公然或いは公開たりうる事実のみ」で「もっぱら街頭における配布や新聞折込を前提として作成されるチラシのような場合」には「信書に該当しない」としました。これでは、「信書」として配達している広告郵便(事実上のDM)の大部分が「信書」でなくなります。
広告郵便のほとんどは、企業が都市部を中心に大量に差し出す収益性の高い郵便物です。「信書」の二割を占め、売り上げは千九百五十六億円にものぼります。
民間企業が“いいとこどり”をねらって参入すれば、郵便局は、この分野であげていた収益を、過疎地や個人利用者の集配、無料の点字郵便などのコストに回すことができなくなります。料金値上げや廃止という形でしわ寄せが利用者に及ぶことになり、郵便のユニバーサルサービス(全国均一、安い料金サービス)が崩れる危険があります。
実際、郵便事業が全面自由化されたスウェーデンでは、大口料金の値下げの一方で、小口料金は大幅値上げされています。
日本郵政公社法案は、民間企業の経営手法の導入などより民間企業に近い公社を設立するための法案です。予算、決算についても、国会の関与を除外しようとしています。
さらに、首相と自民党郵政族との談合で一部を「修正」。「業務に密接に関連する政令で定める事業を行う者に」公社が「出資することができる」という「出資条項」を新たに付け加えました。
これで郵政公社は子会社や孫会社を直接つくれることになり、新たな天下り先や利権の巣くつになる危険が生まれます。これは「公益法人が営利企業の設立をおこなうのは不適当」とし、原則として出資を禁止してきた閣議決定(九六年)の趣旨を踏みにじるものです。
マスコミも「公社が民間企業に出資して子会社や孫会社を作る弊害は、日本道路公団のケースで既に証明済みだ」(「読売」四日付)と批判しています。
一方で政府は、自民党が選挙のたびに集票組織として利用してきた特定郵便局長制度など、同党と郵政事業との癒着・腐敗体質については一切手をつけず、温存を図っています。国会審議でこの問題を追及されても、小泉首相は「改善すべき点は改善してきた」と開き直るだけで、改革の意思をまったく示しません。
今回の法案は、古い利権構造を温存するだけでなく拡大の方向になっており、国民の側から見れば、全国均一の確実な使いやすい郵便制度が崩される“百害あって一利なし”の代物です。
定期刊行物(第三種)や点字郵便物(第四種)などは、一般の郵便物よりも低料金、または無料とされています。
しかし、日本郵政公社法施行法案では「公社の弾力的経営を保証する」として、第四種郵便の無料化条項を削除。郵便物の料金設定を公社の自主的判断にゆだねるとしています。
(1)郵便事業への民間参入を認める信書便法案
(2)「信書」の定義を定めた信書便法関係整備法案
(3)新しく公社を設立する日本郵政公社法案
(4)第四種郵便物の無料条項の削除などを定めた日本郵政公社法施行法案