日本共産党

2002年7月8日(月)「しんぶん赤旗」

教員養成の大学・学部は地域の宝

存続求めて広がる運動


 いま、全国各地で、地域の教員養成系学部・大学の存続を求める運動が広がっています。小泉首相にあてて存続を要望する意見書を全会一致で採択した県議会、九万人余の署名をたずさえ、県知事とともに文部科学省を訪ねて要請した父母ら、地元の教育大学を応援する垂れ幕を出した商店街など、地域あげての多彩な運動です。

父母の相談相手

 いま、全国に四十八の教員養成系学部・大学があり、四十七都道府県のすべてに設置されています。小泉内閣がすすめている「国立大学の構造改革」では、これを統廃合して半分にしようとしています。そうなれば、教師を養成する学部・大学がなくなる県も出てきます。存続を求める関係者は、地域の教育学部や教育大学が果たしている役割の重要性を一致して主張します。

 弘前大学教育学部を守る会の柴田文男会長は、「地元密着の教育を支える教師の輩出だけでなく、地域の文化やスポーツ活動を指導しているのが教育学部を出た教員です。彼らは、非行や不登校などで悩む親の相談活動にも熱心で、本当に心強い存在」といいます。

 教育学部や教育大学では、多数の現職教員が研修しており、地域の教育振興に深くかかわっています。

 六月十四日、増田寛也岩手県知事に、岩手大学教育学部存続の申し入れをした日本共産党の斉藤信県議は、「岩手大学教育学部は、県内出身者と県内就職者がそれぞれ半分以上を占めています。本県で小中高三十人学級を実施すれば、新たな教員二千人が必要です。文科省には、百数十年に及ぶ岩手の教育の灯を一年でなくす権利はない」といいます。

商店街に垂れ幕

 北海道釧路市内の商店街ビルに六月二十四日から、「地域に根ざした教育を! 頑張れがんばれ釧教大」の大きな垂れ幕が下がりました。再編問題で揺れる北海道教育大学釧路校への応援メッセージを出したのは、地元の商店街組合と町内会です。昨年来、釧路校の存続を求めて集めた署名は九万二千人に達しました。

 商店街振興組合理事の渡辺武郎さんは、「垂れ幕は、教官や学生からも好評で、地域全体が盛り上がっている。障害児の発達を手助けする学内サークル『ヒイラギの会』には五十人の学生が参加しており、釧路校の縮小は、そういう大きな財産を失うことになるんですよ」といいます。

 高知大学教育学部と付属校園(学校と幼稚園)を残す会は六月二十五日、橋本大二郎県知事とともに文部科学省を訪れ、九万人余の署名を手渡しました。今年二月、付属校園の父母らで結成した「会」は、「数年後に教員不足を迎える高知県。このままでは地域性や気質を共有する教師がいなくなる。知らぬ間に決められたら大変」(島田幸代会長)と、学長を呼んでの説明会や街頭での署名活動を精力的に行ってきました。

 大分、山口、岩手の各県では、教育委員会やPTA連合会、教職員組合など地元の教育界あげて教育学部存続を求める運動が起こっています。

知事、議会、大学人も

 「教員養成系学部・大学を守れ」の声は、北海道、岩手、山形、福島、栃木、静岡、福井、鳥取、山口、高知、香川などの地方議会でも取り上げられ、知事も積極的に主張しています(別項)。大学人の運動も広がっています。

 教員養成系学部の再編協議を進めてきた山形大学、福島大学、宮城教育大学の三大学―。山形大学教育学部と福島大学は、文科省の強い意向によって教員養成を担う「担当校」断念を表明していました。

 山形県議会は六月十八日、小泉首相にあてて山形大学教育学部の存続を求める意見書を全会一致で採択。地元の強い反発に、同大学は、教育学部教授会で決めた「担当校」断念の方針を、全学の評議会で結論づけることを先送りしました。

 福島県議会は七月五日、福島大学の教員養成機能の充実を求める旨の意見書を全会一致で可決しました。

 福島大学教職員組合は、政府の「大学の構造改革」の見直しを求める請願署名用紙を県内に十三万枚配布。県民から、署名とともに「福大の教育は、現場の生徒の生活指導にすぐ役立つ質の高いもの。国の方針では、今以上に“荒れ”が進む」「各県一国立大の方針は、国家百年の計の基本。思いつきの政府の施策で崩してはならない」との声が寄せられています。

 日本共産党国会議員団は、四月に発表した党の大学政策を携え、これまで全国七つの国立大学長と懇談をもち、大学の統廃合問題や独立行政法人化問題について話し合ってきました。

 六月二十五日、福島大学を訪れた日本共産党の石井郁子(副委員長)、児玉健次両衆院議員は、臼井嘉一学長と懇談。臼井学長は「『教員養成のできる大学に』という県民の要求にはこたえたい」と発言し、「担当校」を断念しても教員養成機能を残すという意向を示しています。


統廃合ねらう小泉「改革」

 昨年十一月、文部科学省の「国立大学の教員養成系大学学部のあり方に関する懇談会」(「あり方懇」)は、「教員養成課程の入学定員の減少」「交通網の発達」などを理由にあげて、戦後確立した一都道府県一教員養成学部の原則を見直し、大胆な統廃合で半分にするという最終報告をまとめました。

 しかし、実際は、「あり方懇」委員の小笠原道雄氏が「五月まで、一県一国立大教育学部・大学の原則は強く維持されていたが、六月の『遠山プラン』から、結論として大幅削減方針へと変わった」(昨年十二月の日本教育学会で)とのべたように、教員養成系大学学部を半減する方針は、小泉内閣の構造改革で急浮上し、強引に盛り込まれたものです。

 「遠山プラン」は、国立大学を大幅に減らし、評価による資金の重点配分で大学を競争させ、トップ三十の大学だけを世界最高水準に育成する、などとしています。


県知事の発言

知に対する冒とく

 片山善博鳥取県知事「統廃合を効率性や採算で進めていくことは“知に対する冒とく”だと思う。地元の大学で学んだ教員は必要」(日本共産党国会議員団との懇談で)

計り知れない損失

 橋本大二郎高知県知事「教育学部と学校が廃止されますと、地域に根ざした独自の教育改革を進めております本県の教育にとりましても、計り知れない損失になる」(2月県議会で)

存続を求める努力

 福田昭夫栃木県知事「宇都宮大学教育学部は、本県教育界にとって重要な役割を担う。存続に向けて、努力したい」(6月県議会で)

大きな禍根を残す

 高橋和雄山形県知事「地域の歴史と特性を十分踏まえず、再編・統合をすすめるのは、大きな禍根を残す」(岸田副文科大臣への要望で、「毎日」6月21日付)

 


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