2002年6月26日(水)「しんぶん赤旗」
二十四日の参院本会議で日本共産党の小池晃議員が行った、医療改悪法案に対する質問(大要)は次のとおりです。
安心できる医療制度は、すべての国民に共通する願いです。その願いを踏みにじる健康保険法改悪に怒りが広がっています。しかも衆議院では強行採決まで行われました。強く抗議するとともに、参議院ではルールを守って徹底的な審議を行うことを求めます。
医療保険の患者負担を原則三割にしている国など世界のどこにもありません。すでに三割になっている国民健康保険の加入者は、重い負担に耐えかねています。総理は、そもそも三割もの患者負担を適正なものと考えているのですか。
日本能率協会の高血圧患者アンケートによると、二割から三割負担になると受診を控える患者比率は13%から30%へ増加するといいます。
窓口負担の引き上げが受診抑制を生むことは、九七年、総理が厚生大臣時代に行った健保本人の二割負担への引き上げですでに実証ずみです。あの改悪で現役世代の外来患者の12%が受診をやめたのです。さらに三割に引き上げれば、いっそう深刻ではありませんか。必要な受診は抑制されないと言い張るのですか。
三割負担になって、体の不調があっても病院に行くのを我慢する人が増えればどうなるか。我慢すれば病気はたいてい悪くなります。重症になれば医療費は高くつきます。医療費の窓口負担の引き上げが、かえって保険財政の悪化を招くのです。医療保険財政を改善するためといいながら、悪循環ではありませんか。
健康保険の財政悪化が健保本人三割負担の理由とされていますが、財政破たんの原因と責任はどこにあるのでしょうか。
第一は深刻な景気の悪化です。
政府管掌健康保険の加入者一人あたりの医療費は、九七年から減少しているにもかかわらず、財政が悪化を続けているのはなぜか。それは、リストラと賃下げが広がるなかで、政管健保の加入者数と、保険料算定の基礎となる標準報酬月額が減り、その結果、保険料収入が九八年から連続して減少しているからにほかなりません。
組合健康保険も同様です。健康保険組合連合会がまとめた今年度の健保組合の予算見込みによれば、財政悪化の最大の原因は、リストラや健保組合の解散により、保険料収入が一千億円も減少することです。これは老人医療への拠出金の増加額である三百五十二億円をはるかに上回るものです。
景気の悪化こそ健保財政悪化の最大の原因なのに、当座しのぎで、保険料や窓口負担を引き上げればどうなるか。個人消費を冷え込ませ、失業と倒産の連鎖を生み、健保財政をさらに悪化させるだけではありませんか。
第二は国庫負担の削減です。
政府は九二年に政管健保への国庫負担比率を、法の本則にある16・4%から13%に引き下げました。財政黒字がその理由でした。その直後から財政悪化が始まったにもかかわらず、政府はこの事態を放置しつづけた結果、この十一年間の国庫負担の削減額は累計で一兆六千億円に及んでいます。政管健保を危機に追い込んだ最大の責任は政府にあります。そのつけを保険料と患者負担の引き上げで、国民にまわすことなど断じて許されません。総理はこの責任についてどう認識しているのか。
しかも、この負担増を強行しても、政管健保財政は四年後には赤字に転落するというのですから、その場しのぎの展望なき改悪というほかありません。大型公共事業や軍事費の削減など税金の使い方を変えて新たな財源を生み出し、国庫負担を引き上げて保険財政を支えてこそ、持続可能な制度になるのではないですか。
七十歳以上の高齢者に対しても定額制の廃止と負担上限の大幅引き上げという過酷な負担増が待ち受けています。
政府は、高齢者の経済的地位が向上しているなどとして、負担増を合理化しています。しかし、先日政府自身が発表した「高齢社会白書」でも、六十五歳以上の女性の17%が「所得なし」で、女性単独世帯の所得は平均でわずか百七十二万円、さらに一人暮らし高齢者は持ち家率も低いことが報告されています。高齢者の所得格差は深刻です。こうした実態を無視して、日本の高齢者が豊かであるとは、到底いえないのではありませんか。
高齢者を直撃するのは負担増だけではありません。いったんは負担上限をこえても窓口で全額を支払い、その後の申告で返還されるという、償還払い制の導入です。このように重い負担と複雑な手続きを高齢者に強いることは、撤回すべきではありませんか。
日本共産党は、安心できる医療制度のため、次の三つの方向を提案しています。
第一に、削られた国庫負担の割合を引き上げることです。
深刻な医療制度の危機は、政府が国庫負担を減らし続けた結果にほかなりません。一九八〇年には国民医療費の30%だった国庫負担は、九九年には25%に低下しました。一方、保険料と窓口負担をあわせた家計の負担は、40%から45%に増えています。国民医療費三十兆円のうち、一兆五千億円の国庫負担が家計の負担に置き換えられたことになります。これを計画的にもとに戻すことを検討すべきではないですか。
第二に、高過ぎる薬価を欧米並みに引き下げることです。
医療費に占める薬剤費の比率は近年低下していますが、欧米諸国に比べると高い水準です。新薬に依存する構造が変わっていないからです。新薬の比率は、ドイツの10・4%に対し、日本は33・6%と三倍をこえています。先日、国立病院での新薬偏重を是正する通達も出されましたが、この際、徹底的に新薬の価格と新薬依存の構造にメスを入れ、薬剤費の大幅な削減をはかるべきではありませんか。政府は今後、薬剤費をどこまで削減するつもりですか。
二〇〇〇年度に自民党は製薬企業から合計二億円の政治献金をうけています。国民に痛みをというなら、公的医療保険財政に支えられている製薬企業からの献金は、まず真っ先に、禁止すべきではありませんか。
第三に、病気の予防、早期発見・早期治療を保障する態勢を確立することです。窓口負担増で早期受診を抑える健保改悪など、最悪の選択といわねばなりません。
小泉内閣が発足してから、景気は加速度的に悪化しています。失業率は5%をこえ、今年に入ってからの倒産件数は、戦後最悪を更新する勢いです。消費支出は前年から2・1%の実質減少。こうした時期に、一兆五千億円をこえる国民負担増をもたらす健康保険法の改悪を提起するなど、無謀というほかありません。
総理は九七年、厚生大臣だった時にも健保改悪で景気を悪化させました。あやまちを繰り返すのではなく、ただちにあらためるべきです。反対署名は二千六百万人、地方議会の意見書は六百自治体にのぼります。この国民の声にこそ耳を傾けるべきではありませんか。
〈小泉首相〉
(三割負担で受診抑制にならないかについて)
患者負担に対する一定の歯止めとともに、低所得者については、自己負担限度額を据え置くなどの配慮を行っている。すでに三割負担の国民健康保険や被用者保険の家族外来において受診抑制がなされていることがないことから、必要な医療が抑制されることはない。
(負担引き上げについて)
短期的には痛みを伴うが、中長期的には、保険料負担の上昇をできるだけ押さえ、全体として将来の国民負担の増加を抑制するものであり、経済面も含め国民全体にとってプラスになる。
(国庫負担引き上げについて)
医療費の国庫負担については、これまでの医療保険制度の円滑な運営を図るために、必要な額を確保している。政府管掌健康保険の国庫補助を引き上げることは困難と考える。 (薬剤費の引き下げについて)
先発品の薬価について新たに平均5%の引き下げをおこなうとともに、新規性の乏しい新薬についても価格の適正化をはかった。今後ともさらなる薬剤費の適正化をすすめる。
(製薬企業からの政治献金禁止について)
企業献金を必ずしも悪と考えていない。
(「改革」にともなう国民負担増について)
医療保険制度の持続可能性を高め、中長期的には経済面も含め、国民全体にとってプラスになる。
〈坂口厚生労働相〉
(償還払いの撤回について)
窓口負担が限度額を超えた場合には償還をすることにしているが、対象者が高齢者であることにかんがみ、制度を知らない、あるいは手続き上の過重な負担によって支給を受けられないということがないよう十分な配慮をしていきたい。