2002年6月18日(火)「しんぶん赤旗」
東京地検特捜部は十七日、ついに「疑惑のデパート」といわれる鈴木宗男衆院議員の逮捕状を請求しました。事件で問われるものは、「やまりん」からのわいろ五百万円を受け取ったあっせん収賄容疑を超えて、鈴木氏に代表される自民党の“利権”政治そのものです。「口利きと政治献金」。二つの角度から衝撃度を見ると…。(山本豊彦記者)
「こんなこと誰でもやっていること。これで逮捕されたらほとんどの自民党の先生は手が後ろに回っちゃうよ」
官房長官秘書官を経験した自民党のベテラン秘書は吐き捨てるようにいいます。
鈴木氏の逮捕状請求の容疑は、あっせん収賄容疑。国会議員がその影響力を使って公務員に職務上の不正行為をさせ、見返りにわいろを受けたら罪になるというものです。職務権限の有無は関係なし。
「いわゆる“口利き”ですよ。業者から『この仕事何とかならないか』と頼まれれば、役所に電話ぐらいしますよ。無理な頼みでもそれぐらいはやってる」と前出のベテラン秘書は話します。
自民党議員による公共工事をめぐる“口利き”は、これまでもたびたび、問題になってきました。今国会でも、加藤紘一元自民党幹事長の元事務所代表が山形県内の建設会社から“口利き料”を受けとっていたことが取り上げられました。
この「わいろ」も政治献金として届け出れば合法的な政治資金になる―。これが鈴木議員や他の自民党政治家の手法でした。
鈴木議員は、今回のやまりんからのわいろについても九九年の衆院予算委員会で、堂々と弁護していました。
「政治資金規正法にもとづいて適正に処理している」「私はすべからく全部オープンにしている」。十六日の東京地検特捜部の事情聴取にたいしても同じ趣旨の発言をしています。
実際に、鈴木議員は、「やまりん」からのワイロ五百万円のうち、四百万円を資金管理団体「21世紀政策研究会」への寄付として処理し、政治資金収支報告書に記載。事件発覚後には返却したとしていました。
それが、捜査では通用しなかったのです。
「政治献金と呼んでも、職務行為の対価であれば、わいろにほかならない」。これが、田代富士男元公明党参院議員の「砂利船汚職」事件(八八年)や、藤波孝生議員のリクルート事件(八九年)での確定判決の論理でした。
リクルート事件で東京高裁は「請託があり、提供された利益がその内容と対価関係にあったといえるかどうか」という視点でわいろを認定しました。
あっせん収賄では、職務行為ではなく、不正な請託への対価であれば罪になります。
鈴木氏に公共工事で“口利き”を依頼したことのある建設会社元幹部は証言します。
「鈴木さんの秘書のところにお礼を持っていったら、『こんなことをされては困る』といわれ、献金で出すように指示された。一社では出せない額なので、関連会社に分散したり、パーティー券を買ったりしたことを覚えている」
企業献金は、もともと企業の利益のために出されるもの。そうでなければ、会社に損害を与える背任行為です。
自民党と自民党政治家がどっぷり浸っている企業献金そのものに、わいろではないかという根本的な問いがつきつけられています。
先のベテラン秘書はいいます。
「鈴木氏はいい悪いを別にして極めて自民党的な人間だ。今回の問題は鈴木氏一人が問われているというより、自民流の“口利き”政治が根本から問われている」
検察庁が会期中の国会議員の逮捕方針を決めた場合、検事総長が法相に逮捕許諾の了承を求める。法相がこれを認めると検察官が所轄裁判所に逮捕状を請求。裁判官が「逮捕状発付が相当」と判断すれば内閣に逮捕許諾要求書が提出される。
内閣は閣議決定後、議員の所属議院の議長に許諾請求し、議長が議院運営委員会に審議を付託。議運委は逮捕許諾を審議し、結果を本会議に報告。本会議が賛成多数で議決すると、逮捕の許諾が決まる。
この後は、内閣を経て裁判所に通知書が提出され、裁判所が逮捕状を発付し、検察官が逮捕状を執行する。
あっせん収賄 公務員や議員が第三者から依頼を受け、ほかの公務員に対し(1)職務上不正な行為をさせる(2)職務上しなければならない行為をさせない―ようにする際、あっせん料としてわいろを受領、要求、約束すること。罰則は五年以下の懲役。職務上正当な行為のあっせんについては、罪が成立しません。一九九四年には、中村喜四郎元建設相が大手ゼネコンから一千万円を受け取り、談合の告発見送りを公正取引委員会に依頼したとして逮捕、起訴されました。
過去の逮捕許諾請求
政治家(所属院) 事件名(容疑) 請求日 結果