2002年6月16日(日)「しんぶん赤旗」
外国人排斥などを掲げる極右政党が選挙で相次いで伸長している欧州で、国境を越えて仕事を求める移民に対する規制強化の動きが進んでいます。二十一、二十二の両日スペインのセビリアで開催される欧州連合(EU)首脳会議でも、移民問題は主要テーマとなる見込みです。加盟国政府からはEUレベルの国境警備隊の創設など、規制に向けた具体的提案が行われる一方、移民規制による人権侵害を懸念する声も出ています。(ウィーンで岡崎衆史 写真も)
「問題が存在しないかのようなふりをするのをやめ、偽善の仮面を脱ぎ捨てる必要がある」。四日、ブリュッセルでの記者会見で、EU議長国スペインのアスナール首相が移民規制の措置を講じる必要性を強調しました。
これに先立ち、EUの執行機関である欧州委員会は五月七日、不法移民の取り締まりを強化するため、二〇〇七年までに欧州国境警備隊を創設することを提案しました。五月末に行われたEU内務相会議でも、独、仏、伊、スペイン、ベルギーが、同様の提起をしました。
各国レベルでは、イタリア下院が四日、EU域外出身の外国人に対して指紋押なつを義務化する法案を可決。オーストリア政府も同日、欧州域外出身の外国人にドイツ語習得を義務付ける法案を閣議決定するなど、相次いで規制強化に乗り出しました。
デンマーク国会が五月末に可決した新移民法は、外国出身者が永住許可取得に必要な滞在期間を現在の三年から七年に延長。永住許可取得まで社会保障制度の利益享受を制限しました。外国人と結婚できる年齢、移民が配偶者を出身国から呼び寄せることができる最低年齢は十八歳から二十四歳に引き上げられました。
各国の野党は、それぞれの国の移民規制法案について「人種差別的」(イタリア共産主義再建党)、「問題解決にならない」(オーストリア緑の党)などと批判しています。また、デンマークの新移民法については、人権問題を懸念するフランス、ベルギー、スウェーデンの閣僚が「深刻な懸念」を表明しました。
一方、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は五月三十一日、新たな統計を発表し、EU域内での亡命申請者数は、九二年の約六十七万五千人から、昨年は約三十八万五千人に半数近くになっていると指摘、移民規制論議は「過度の興奮」と批判しました。
人権や民主主義を基本原則に掲げる欧州はこれまで、多数の移民を受け入れてきました。EU域内に流入する移民の総数は、流出分を差し引いて年百万人程度(国際戦略問題研究所=IISS)。経済協力開発機構(OECD)によると、日本より人口が少ないドイツの外国人人口は七百三十二万人で、日本の百五十一万二千人を大きく上回ります(九八年)。
しかし、昨年九月の米国でのテロ事件後高まった治安への不安、失業や労働条件悪化などへの人々の不満を極右政党が利用しています。「外国人を追い出せば失業は解決する」「犯罪は外国人のせい」などと宣伝して勢力を広げ、今年に入ってからも、フランス、オランダなどで進出が続いていました。
これを受け、欧州諸国政府は、各国で異なる移民政策を見直し、共通の政策を策定することや、不法移民の取り締まりで共同する必要性に迫られていました。ただ、失業や貧困など、問題の根源を避けての「移民規制だけでは問題の解決にはならない」との主張や、出生率が低下する欧州で労働力の重要部分を移民が担っている事実を指摘し、規制の行き過ぎを批判する声もあります。