2002年6月13日(木)「しんぶん赤旗」
身元調査リスト作成問題で、防衛庁が十一日深夜になって全文を公表した「調査報告書」。防衛庁がいかに国民の情報を集め、監視していたか、人権侵害のリアルな実態が浮き彫りになりました。それでも、「違法でない」と居直り、「組織ぐるみ」問題の解明も避ける同庁の姿勢では、国民は納得できません。
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報告書では、情報開示を求める人の個人情報を、防衛庁があらゆる手段で独自に集めリスト化していたリアルな実態が浮かび上がっています。
海上幕僚監部情報公開室の三等海佐作成のリスト。「反戦自衛官」「受験者(〇〇で失格)の母」「元戦史教官」といった、情報開示となんの関係もなく、思想・信条を含めた個人情報が書き込まれていました。
同三佐は、これらの情報を、開示請求書や請求者の名刺にとどまらず、インターネット、海幕以外の情報公開室の担当者などとのやりとり、書籍・雑誌、新聞から独自に入手。報告書も“個人ファイルの保有目的の達成に必要な限度を超えてはならない”とした行政機関個人情報保護法(四条二項)違反を認めざるえませんでした。(表参照)
また報告書は、内局、陸・空の各自衛隊幕僚監部のケースでも独自に情報収集をおこなっていたことも否定できませんでした。
たとえば陸幕作成の「開示請求受状況一覧表」には個人名(姓)とともに、「宗教団体」「受験予定者?」「防大卒、元予備自」(注‥予備自衛官とみられる)など個人情報を記入しています。
情報入手先についても、開示請求者の名刺などともに「書籍又は既知の情報など」と明記しています。
これだけの事実を認めながら、報告書は、内局、陸・空の各幕作成のリストに載っている情報では、個人が特定できないので違法性はないと強弁。陸幕作成の「開示請求受状況表」には個人名が書かれていたにもかかわらず、「一過性の作業用基礎データ」なので、違法性なしと言い逃れようとしています。
これでは結局、防衛庁は今後も、国民監視の情報収集とリスト作成を続けると宣言したようなものです。
個人情報リストを上司の了解のもとで作成し、庁内情報通信網(LAN)への掲示や庁内関係者に配布するなど、防衛庁が組織的に管理し、利用していたことが改めて鮮明になりました。
報告書は、三等海佐作成のリスト問題について「三等海佐の発意」と個人の問題にわい小化しようとしています。
しかし、三佐はそのリスト「活用」を目的に、情報漏えいを警戒する部門である海幕調査課情報保全室や海上自衛隊中央調査隊に配布。このほか、内局、陸・空幕の情報公開室など合計九人に配っていました。
しかも、上司の海幕室長が、三佐のリスト作成を知り、「法に抵触するおそれがあることを認識していた」にもかかわらず、「保全の専門家であり、適切に処置するであろう」と判断し、放置していました。配布先についても「保全業務に関わる者」だから、「保全には十分注意するであろう」と判断、回収指示もしませんでした。
室長は今年三月、三佐が転勤するさい、三佐からリストを受けとってもいました。これが「組織的ぐるみ」でなくて、なんでしょうか。
上司の指示、了解のもとでリスト作成されたことは、内局、陸・空幕のケースでも共通しています。
内局作成の「進行管理表」で請求者をイニシャルなどで書くようになったのは内局の情報公開室長の指示。陸幕作成の「業務処理状況一覧表」は、陸幕情報公開室長が了解し、陸幕総務課長にも報告されています。空幕作成のリストも、空幕情報公開室長の指示で作成されたものです。
これらのリストは、LANに掲示され、内局作成リストは約六千五百台、陸・空の各幕のリストもそれぞれ約一千台のパソコンの端末で閲覧可能になっていたのです。
さらに報告書では、新たな違法行為も明るみに出ました。
空幕情報公開室員が情報公開請求者の氏名、請求内容などの個人情報を航空自衛隊の東京地方調査隊隊員に文書で配布し、その回数は「合わせて十五回程度」だったことが判明しています。
報告書はこれについて、「職務に関して知り得た個人情報の内容をみだりに他人に知らせてはならない旨定めた行政機関電算処理個人情報保護法第一二条に違反する」としています。
防衛施設庁でも、同施設部施設企画課の情報公開担当の専門官が、情報公開請求者の氏名および所属団体名などを記載したリストを作り、担当外の職員の閲覧が可能な同庁のLANに掲示していました。
報告書は、「結果的に情報公開業務に直接関係のない職員に対し…目的外の参考資料として掲示したことになり、(行政機関電算処理個人情報保護)法第九条第一項に違反する」と認めています。
内局、陸・空幕がLANに掲載していたリストについて、発覚後に個人情報を削除して再掲載したことが、“隠ぺい工作”だと問題にされていました。
報告書は「証拠隠しを行ったと言われてもやむを得ない」(防衛庁情報公開室分)としつつも、全体として「証拠を隠そうという意図は認められなかった」と結論づけています。
しかし、報告書にのべられた経過からは、組織的な「証拠隠し」がありありと浮かんできます。
「(防衛庁情報公開室長は)問題はないと思うが色々指摘を受ける前に落としておこうと考え、同室担当事務官に内局リストから(個人名の)イニシャル等を削除するよう指示し…削除させた」
「(陸幕情報公開室)室長は新聞報道を読み、陸幕リストの摘要欄に記載された内容が法的に問題となる可能性がある旨を知った…陸幕リストは陸幕LANにおいて閲覧可能な状態にあるものと認識していたため…事務官に陸幕リストの摘要欄の削除を指示した」
「(空幕情報公開室長は新聞報道を見て)空幕LANのホームページ上に掲載してある『進行管理表』の『請求者区分』が、場合によっては個人情報に該当すると判断される可能性があると考え、これを削除することが適当であると考えた」
内局、陸幕、空幕いずれの情報公開室も、問題がマスコミで取り上げられたのをうけ、各室長が慌てて指示をし、LANに掲載していたリストから個人情報を削除させています。これこそ組織的な“隠ぺい工作”以外の何物でもありません。