2002年6月13日(木)「しんぶん赤旗」
十二日の党首討論での日本共産党の志位和夫委員長の追及は、唯一の被爆国の政府でありながら、米国の核兵器使用拡大の方針に対して、なんの反対もできない小泉内閣の対米追随ぶりを鮮やかに示しました。志位委員長と小泉純一郎首相とのやりとりを紹介します。
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志位 この間、福田官房長官による「非核三原則」の「見直し」発言が、国内外で大問題になりました。
私はいま、唯一の被爆国として、日本政府が核兵器というものにどういう基本姿勢でのぞむか、ということが深刻に問われていると思います。
核戦争といいますと、インド・パキスタンの緊張が、核戦争に発展するのではないかと、世界中が心配しました。わが党も、両国政府への働きかけを独自にやりましたが、国際社会が全面衝突の回避の努力をはかるなかで、緊張緩和の方向に向けた一歩も報じられておりまして、この問題は平和的な解決を切実に望みたいと思います。
しかし、私は、世界を見ますと、核兵器の使用のより深刻な、現実的な危険があると思います。
それは、アメリカのブッシュ政権が、今年一月に米国議会に提出した「核態勢の見直し」という報告書(別項)のなかで、「テロへの対抗」「大量破壊兵器への対抗」という名目で、七カ国を具体的に名指しをして、核兵器の使用計画の策定を指示している、こういう事実が明らかになったことです。
七つの国のなかには核兵器国である中国、ロシアだけではなく、北朝鮮、イラク、イラン、リビア、シリアという非核保有国も含まれております。
アメリカはこれまで、核兵器を持たない国に対しては核を使わないということを世界に公約してきました。ですから、こんどのこの「核態勢の見直し」というのは、自らの公約をも踏み破るものです。ですから、四月に非同盟諸国の外相会議が行われておりますが、この「核態勢の見直し」に対して、重大な「約束違反だ」と批判するコミュニケがあがっています。
そこでうかがいたい。私は、核兵器というのは、どの国に対してであれ、絶対に使用されてはならない兵器だと思いますが、その使用を核兵器を持たない国にまで広げようというこのアメリカの方針――拡大しようという方針――これは、被爆国の政府としては断じて容認しがたい、反対であると明言すべきではありませんか。いかがでしょうか。
首相 日本国政府としてはことあるたびに、核廃絶への努力を継続していかなければならないと思っております。アメリカ政府に対しても、日本の立場を伝えております。そして、アメリカのブッシュ大統領も、話し合いの重要性、平和的解決、これは十分認識していると思っております。
現に今年の二月、ブッシュ大統領が日本を訪問された際、現実に、多くの国民が関心をもったイラクやイランや北朝鮮についてのブッシュ大統領の発言に対しまして、関心を持っておりましたから、その問題も会談の際に当然、話題になりました。そういう際にも、ブッシュ大統領は、話し合いの重要性、これを十分アメリカ政府も考えているし、日本の平和的解決、そして核の問題に対するきわめて、被爆国としての感情、よく理解していると、核兵器を使用しない、そういう形の平和的解決が望ましいということのなかで、しかし、アメリカは独自の安全保障政策上、あらゆる場合の選択肢というものを閉じることはないんだと。
しかし、もっとも重視しているのは平和的解決、話し合いによる解決なんだという話をしているわけであります。現に、それぞれの場で、アメリカと日本の対話におきましても、国連の場におきましても、日本としては、核廃絶への努力を傾注している外交的努力は、お認めいただけると思っております。
志位 総理はながながと答弁されましたが、私の質問に答えておりません。ただ一点ですね、アメリカはあらゆる選択肢を排除していないんだということをおっしゃいましたね。では、このあらゆる選択肢のなかに、非核保有国に対する核兵器の使用、これも含まれるということを、総理はお認めになるのか。これを“是”とするのか“非”とするのか、この“是非”について端的にお答えください。簡単でいいですから。
首相 日本としては、核廃絶にむける努力をアメリカもしてもらいたい。日本もそのような方向に向かって、これからも外交的努力を続けるんだ。しかし、アメリカはアメリカの考えとして、選択肢を残しておく、ということを言っているわけであります。
志位 “非”といえないんですよ。これが情けない。
昨年十一月二十九日の国連総会で、非核保有国に対する核攻撃を禁止する国際協定を締結すべきだという決議があげられているんです。これに日本は賛成しているんです。日本もこれは賛成せざるを得ない決議だったんですよ。
こういう国連の場で、ともかく核兵器を持たない国には核を使っちゃならないという態度表明をやっておいて、その後、一月にアメリカが核戦略を変えて、非核保有国に対しても核を使うんだということを言い出したら、平気で方針を変える。言えなくなる。“非”と言えなくなる。こういうアメリカ追随外交こそ、ああいう福田発言のような核兵器に対する無感覚を生み出している。その根本にある。このことを指摘して、終わりにいたします。
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NPR報告は、核攻撃能力が必要となる条件を確定する場合、「即時の非常事態」「潜在的な非常事態」「不意の非常事態」の三つをあげています。
「即時の非常事態」は、十分に認識している現在の危険とし、事例としてイラクによるイスラエルとその近隣諸国にたいする攻撃、北朝鮮による韓国にたいする攻撃、台湾の地位をめぐる軍事的対決をあげています。
「潜在的な非常事態」は、起こりそうであるが、即時の危険ではない事態と説明しています。米国にたいする新しい敵対的な軍事連合や軍事同盟が出現し、そのうちの一国ないしそれ以上が大量破壊兵器と運搬手段を保有している事態をあげています。
「不意の非常事態」は、核兵器を保有している国で突然に政権が交代し、核兵器が新しい敵対的な指導部の手に渡るとか、敵が大量破壊兵器を保持していることが突然に明らかになることをあげています。
北朝鮮、イラク、イラン、シリア、リビアの五カ国について、「即時の非常事態、潜在的非常事態、不意の非常事態のいずれにも関連する国」としています。さらにこのすべての国が「テロリストを支援し、かくまい、使用可能な大量破壊兵器とミサイル計画を持っている」としています。
中国については、「ひきつづき戦略目的を発展させ、核戦力と非核戦力の近代化をすすめている」とし、「即時の非常事態」「潜在的な非常事態に関連する国家」としています。
ロシアについては、「周辺部に多くの戦略的問題を抱えており、将来の方向を正確に描くことはできない」として、米ロ関係が将来著しく悪化した場合は、「米国は核戦力の水準と態勢を修正することが必要となるかもしれない」とのべています。
NPR報告は「危機にさいして、迅速に戦争計画を準備する」ような「順応性のある作戦立案」が必要だと指摘。「危機において使用する兵器と攻撃する標的の実行可能な組み合わせを個々に識別」した「入念な計画立案」を基礎としながら、「非常事態にたいしては、十分に順応性をもたせた作戦立案が必要である」としています。