日本共産党

2002年6月9日(日)「しんぶん赤旗」

どうなってるの?――…

小泉「税制改革」


 小泉首相の指示のもとで「税制改革」の論議が急ピッチですすんでいます。「努力した人が報われる」税制とか、負担はみんなが「広く薄く」など聞こえのよい言葉がキーワードのようにいわれていますが、国民にとってその中身はどうなのか。

“対立”しているって?

新聞報道で「税制改革」を議論する二つの諮問機関に「対立」があるようにいわれているのは、当面の手法の違いで、大企業・大金持ちを優遇して、庶民に増税する基本方向はかわりません。
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大増税を「議論」する経済財政諮問会議に出席した小泉首相=5月13日、首相官邸

 「税制改革」の論議の舞台となっているのは、経済財政諮問会議(議長=小泉純一郎首相)と政府税制調査会(石弘光会長)の二つの諮問機関です。今月の中旬には「経済活性化」をかかげて「包括的抜本的な改革」の基本方針をまとめます。

 マスコミは、経済「活性化」のための「税制改革」をめぐって二つの諮問機関が対立しているように描いています。「減税」を含めた経済「活性化」を強調する経済財政諮問会議と、税収「空洞化」を埋める「増税」に重点を置く政府税制調査会が“対立している”という構図です。

 しかし、「減税」と「増税」の対立のようにみえて、大企業や大金持ちは優遇して、庶民に増税する点では完全に一致しています。諮問会議が強調する「活性化」にしても、中身は研究開発投資の優遇や法人課税の実効税率、所得税の最高税率引き下げなど、文字通りの大企業・大金持ち優遇です。政府税調は、「自由な経済行動をさまたげない税制」を強調し、消費税増税をあからさまにしています。

 マスコミがあおる“対立”の影で大変なことがすすんでいるのです。

「広く薄く」というのは?

大企業や大金持ちにかける税金は引き下げ、所得の低い国民をふくめ税金を取りたてる層をうんと広げることを基本方針にしようということです。
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 小泉「税制改革」のキーワードは「広く薄く」です。「働く人の四人に一人が所得税を払っていない」「全体の七割の赤字法人は法人税を払っていない」というのが、小泉首相や塩川財務相が今年はじめから宣伝している税の「空洞化」の中身です。

 税収が減る「空洞化」が起きたのは、働く人や経営が苦しい中小企業の責任でしょうか。自民党政治は、一九八八年度に42%だった法人税率を三回にわたる引き下げで30%にし、所得税の最高税率も九九年の「改正」で50%から37%に引き下げるなど、大企業・大金持ち優遇の「税制改革」を繰り返してきました。これに加えて、自民党政治が深刻にしている不況が税収をきびしくしているのです。

 ところが税調や諮問会議は、ここにメスを入れるのではなく、大企業や大金持ちの税金はもっとまけてやろうとしています。その穴埋めに、所得の少ない人や赤字の中小企業にもっと負担させようというのが「広く薄く」の意味です。

 所得税の課税最低限が下がれば、所得税を払わなくてよかった年間収入三百八十四万円以下のサラリーマン(夫婦子ども二人の場合)も税金をとられます。控除が減れば、課税所得が大きくなって、大部分のサラリーマンは増税になります。配偶者特別控除(三十八万円)がなくなれば、三万八千円の増税になります。

 法人課税の実効税率(国税と地方税)を下げるために導入するのが「外形標準課税」です。小泉首相の指示で、当面の焦点の一つに浮上してきました。これは、地方税の法人事業税の課税基準を、所得から事業の規模にかえて、赤字でも人を雇って、事業をしていれば税金がとれる仕組みにしようというのです。

 中小業者の重い負担となります。

消費税のあつかいは?

消費税率アップが基本方針として論議がすすんでいます。「問題はタイミング」とさえいわれています。

 現行5%の消費税はどうでしょうか。小泉首相は「安易な消費税の増税はしない」(十七日)といっています。「安易」でなければ増税するということです。

 政府税調は、二十四日に発表した「基本方針」で、「将来税率を引き上げ、消費税の役割を高める方向」と明記しました。

 石会長は「(将来)10%というのは普通の議論」と税率倍増は当たり前と公言。しかも、遠い将来の話ではありません。「二〇〇四年、基礎年金(の国の負担)は三分の一から二分の一になって、安定財源をといっているときに、誰しも思っているのは消費税だ」と税率アップの根拠とタイミングまであげ、「そのとき議論はおきうる」といっています。早ければ来年にも本格的な議論がでかねないということです。

本来の税制のあり方は?

税金は、負担能力に応じて負担を求める(応能負担)ことが基本です。法人税や所得税などの直接税中心、いろいろな収入を合計して課税する総合課税、所得の多い人が適切に多く負担する累進課税、生活費には税金をかけないという生計費非課税―こうした民主的な原則に立った抜本的な改革こそ必要です。

 消費税の税率引き上げは当然とする議論に代表されるように、「広く薄く」をキーワードにする「税制改革」は、負担能力に応じて負担するというほんらいの税のあり方に反しています。納税者の生活や経済状態に配慮せず、とりやすいところから取る乱暴なやり方です。

 小泉首相は「構造改革なくして景気回復なし」といって、中小企業の倒産を増やす不良債権の早期最終処理やリストラをすすめてきました。社会保障もどんどん切り捨てています。失業率は戦後最悪の水準で高止まりし、家計の冷え込みは回復のきざしさえみえません。

 こんなときこそ、生活に必要な所得には課税しない生計費非課税の原則や累進税率の強化で税制の所得再分配機能を広げ、消費税率を下げて、国民の家計をあたためることが必要です。


《「税制」メモ》

◇課税最低限

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 生活に必要な費用には課税しないというのが税制の原則です。現行制度では基礎控除は生計費よりはるかに低い水準です。このほか給与所得控除、配偶者控除など各種控除があり、各種控除を年収から引いた額が課税所得で、夫婦子ども2人の場合、各種控除の合計384万円が年間収入の課税最低限です。

 政府税調の議論では、配偶者特別控除や特定扶養控除を縮小する方向が有力です。

◇外形標準課税

 政府税調基礎小委員会の資料では、過去10年間の法人事業税収の平均は約4兆円です。これを約77万5千社が払っています。課税の基準は所得で、赤字会社に負担はありません。外形標準課税では、課税の基準は事業の規模(給与、利子、賃貸料など)になります。この仕組みでは赤字の会社にも負担させるため、単純計算すると、これまで77万5千社で4兆円の負担が、赤字会社も含めた全法人245万社で負担することになり、同じ税収を上げるための税率は低くてよいことになります。政府税調では、税収4兆円のうちの半分を外形標準課税にする案も。

◇消費税上げが現実味

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 1989年に導入された消費税は当初4兆円だった税収がいまや12兆2千億円と3倍以上に増え、法人税収を上回ります。これまで、中小業者の事務負担を減らすために導入した簡易課税制度などが91年に縮減され、中小業者の負担が重くなりました。さらに94年には、税率を5%に引き上げ(97年4月実施)、簡易課税制度もさらに縮減。今回も中小業者の負担増をさらに引き起こす措置や税率引き上げが現実味を帯びています。

◇「4人に1人」が払っていない??

 小泉首相は「働く人の4人に1人は税金を払っていない」といっています。実際はこの割合は80年代からで、納税者の割合はむしろ増えています。

 


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