2002年6月9日(日)「しんぶん赤旗」
政府・与党は、会期を延長して医療改悪法案を通そうとしています。暮らしと健康をおびやかす悪法ぶりが審議でもはっきりしてきました。採決・成立のシナリオに合わせるための時間かせぎ、大幅会期延長の談合はやめて、きっぱり廃案にすべきです。
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改悪法案は、サラリーマンなどの患者負担を二割から三割に引き上げ、労働者の保険料を値上げ。お年寄りも一割負担(一定以上の所得がある人は二割負担)にするなど、痛み押しつけのオンパレードです。これによる負担増は年一兆五千億円にも及ぶことが審議で明らかになりました。
一九九七年にも「改革」と称して、患者負担増と保険料値上げで二兆円もの負担増を国民に押しつけましたが、消費税の引き上げとあいまって大不況をまねきました。
また同じ失敗をくり返そうとする小泉内閣。「万一の不安からできるだけ消費を抑えようとするために、景気をいっそう悪化させるのではないか」―日本共産党の小沢和秋議員の指摘に、坂口力厚労相も「景気に対しては、将来不安がより大きな影響を与えることはまちがいない」と否定できませんでした。
改悪法案の付則には、医療保険の患者負担率を将来も「三割」で維持することがもり込まれました。坂口厚労相も衆院本会議で「三割負担が限界」だとのべました。
ところが委員会審議で問われると、坂口厚労相は一転して「現内閣の決意を表明したもの」「将来のことまで現在でくくるというわけにはいかない」と答弁。引き上げもあり得るとの考えを示しました。小泉純一郎首相は厚生大臣だった九七年、「二十一世紀の医療保険制度」の厚生省案として「大病院の通院は五割負担」を打ち出しています。
三割負担にとどまる保証は何もありません。
法案は、中小企業の労働者が加入する政管健保の保険料を一人平均で年間三万円(労使折半)引き上げます。月給の8・2%に保険料率が引き上げられるためです。
法案審議入りの本会議で小泉首相は、三割負担は「保険料負担の上昇をできるだけ抑制するという観点で行うもの」とのべていました。しかし審議をすると坂口力厚労相は、今後も政管健保の保険料値上げが続き二〇二五年には「10・3%程度見込まれる」と明らかにしました。労使折半で約5%が労働者負担になり、月給三十万円で一万五千円の保険料が天引きされます。
厚生労働省は審議の最中に将来の年金保険料の値上げ計画も公表しました。それによると同じ二〇二五年の厚生年金保険料は、もっとも少子化が進むケースで27・5%(労使折半)と推計しました。
医療と年金をあわせた保険料は月給の二割にも及ぶことになります。月給三十万円だと六万円。将来への歯止めなき負担増を見越した改悪を通すわけにはいきません。
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法案には「保険給付の内容及び範囲の在り方」の検討、それにもとづく具体策を実施するとしています。保険のきく医療の範囲を小さくして、保険のきかない、かかった費用は全額自費負担となる仕組み、あるいは病院が患者から自由に料金を徴収できる医療をひろげていく方針を打ち出したものです。
すでに四月の診療報酬改定で先行実施。月十万円から三十万円にもなる差額ベッド代をとれる範囲を広げました。小泉内閣は、法案が通ればもっと拡大する方針です。
審議では長期入院患者への負担増に質問が集中しています。入院が六カ月を超えると入院料の15%が保険外負担となり、入院を継続したければ15%分、月額にして五万円ほど払えという改悪です。厚生労働省は、長期入院は「患者の事情」だとして五万人の退院を見込んでいます。
しかし、坂口厚労相は、退院患者の受け入れ先について「明確になっていない」と答えました。
「改革」で国はどう責任をはたすのか。坂口厚労相も保険財政について「保険料でお願いするか、それとも国庫負担、税でお願いするか、自己負担でお願いするか、その割合をどうするか問われている」とのべました。しかし、政管健保の財政赤字をまねいた国庫負担の削減を「復元」せよと問われると、「政管に限ってひきあげるのはバランスを失する」(大塚義治保険局長)と冷たく拒否。国の責任で国民負担増を抑えることなど毛頭考えていないことが浮かびあがりました。
九九年度までの二十年間の医療費に占める国庫負担は30・1%から24・9%に下落。同時期の保険料と患者自己負担を合計した国民負担は40・3%から44・6%に上昇しています。九九年度の医療費にあてはめると、国庫負担削減で国は一兆六千億円も医療保険から引き上げたことになります。患者負担増に相当する金額です。
国の責任を放棄しながら国民にだけ「一方損」を求める法案を認めるわけにはいきません。
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傍聴席はいつも満員なのに、自民党の議員席はガラガラ―。法案審議の委員会室で目にした、与党議員のふまじめな態度が傍聴者の怒りをかっています。
定数四十五人の委員会なのに委員が十五、六人しかいないことも。定数の半分に満たず「傍聴者が見ている」と審議中断になったこともたびたびです。あわてて携帯電話で連絡を取り合い、同僚議員を呼び集める自民党議員。
私語は当たり前。質問中にウロウロ立ち歩く議員までいます。
七日、“政府が医療改悪法案成立を最優先課題に”のニュースに危機感を募らせ国会要請行動に上京した大阪市の藤坂利久さん(55)も議員席の様子にびっくり。「あんな重大法案の審議なのに。こんな状態で採決だけ急ごうとする与党の姿勢は許せない」と、語っていました。