日本共産党

2002年6月5日(水)「しんぶん赤旗」

防衛庁、陸、海、空幕 身元調査リスト

作成も隠ぺいも組織ぐるみ


写真

リスト問題で国民の批判を受ける防衛庁(東京・新宿区)

 防衛庁内局と陸・海・空各幕僚監部が情報公開請求者を身元調査し、リストを作成していた問題は、組織ぐるみで実行し、組織ぐるみで隠ぺいしていたことがいよいよ鮮明になってきました。国民を敵視し、基本的人権を侵し、発覚したら隠す――。これが有事立法を推進する組織の実態です。

 最初にリスト作成が明るみに出たのは、海上幕僚監部情報公開室の三佐でした。

 四日、記者会見した石川亨海幕長は、この三佐が昨年四月、情報公開制度開始後から違法性を認識してリスト作成に着手、上司の情報公開室長もリスト作成を知っていたことを認めました。

 海自のリストは百四十一件。うち五十一件が情報公開請求書類ではわからない個人情報が書かれていました。三佐は、「一番よく利用してくれる」と海幕調査課と海自中央調査隊に計七回、リストを提供。さらに、内局、陸幕、空幕などに提供するさい、「取り扱いに十分注意を」と求めていました。リストは九人に渡され、海自中央調査隊内で数人がリストを供覧していたことも明らかになっています。

 陸上幕僚監部では、情報公開室長の指示の下、情報公開室の職員が「元自」やマスコミ名を記載し、会社名などをグラフ化したリストを作成していました。九人がかりで作成しました。リストは五百三十五件あり、うち個人情報に触れていたのは百三十九件でした。

 航空幕僚監部では、情報公開室の業務の一環として数種類の個人リストを作成していました。マスコミかその他個人かを明記した「進行管理一覧表」のほか、「市民オンブズマン」「その他業者」などと分類した「統計データ」も作成していました。リストにしていた請求は千二百十四件、個人情報があるのは百二十件。遠竹郁夫空幕長はリストの存在を知りながら否定したことについて、「(個人リストに)当たらないと思っていた」などとのべました。とんでもない人権感覚です。

内局

 内局でも情報公開室の作業として、略語などを使って個人リストを作成していました。リストは千二百件程度で、個人情報の件数はまだ判明していないといいます。


庁内通信網(LAN)で情報共有

報道受け、こっそり削除

 作成したリストを組織ぐるみで利用していたという重要証拠が、リストを庁内情報通信網(LAN)に掲示し、利用できるようにしていたことです。

 これによって内局でも、「庁内の組織全体で見られる」状態に。陸幕では資料請求先の地方連絡部や部隊などにも、LANからメールで送信されていました。空幕では、個人名を除いたものがLANに掲示されていました。

 さらに重大なのは、LANからこっそり削除した“証拠隠滅”です。

 五月二十八日の新聞報道で、問題が発覚したその日に、陸・空両幕僚監部は作成したリストを載せたLANの運用を停止させ、リストそのものをLANから削除しました。また、内局も二十九日にLANを停止、リストを削除しました。

 これについて、中谷正寛陸幕長は三日の記者会見で「一日に確認した」と認め、空幕長も三十日に個人リストの存在について報告を受けていたことを認めました。真相を隠していたのです。

 中谷元・防衛庁長官は三日、「なぜLANを止めたのか、首をかしげざるを得ない」とのべ、「(LANで利用していたことが)組織的と言うなら、そう思う」と認めました。

 LAN停止からリスト作成公表まで時間がかかったことも、組織的な隠ぺいがあったとの疑念を深めています。

 もともとLANに資料を掲示したり、削除したりすること自体、幹部の了承なしには不可能。リスト作成も、リスト隠しも、組織ぐるみとはっきりしてきた以上、中谷長官の責任が問われるのも当然です。

 さらに、問題になってきたのは、国民を敵視し、基本的人権を侵害しても反省のない防衛庁・自衛隊の根深い体質です。

 日本共産党の吉井英勝衆院議員の調査で、情報収集・諜報(ちょうほう)活動をおこなう自衛調査隊出身者六人が、情報公開室に配属されていたことが判明しました。その数は、海幕情報公開室に四人、空幕情報公開室に二人。調査隊は、国民監視を仕事にしている組織です。

 「今回明るみに出た、情報公開請求者のリストなどは調査隊の仕事からするとまだほんの一部」と指摘する自衛隊OBも。LANにはもっと広く思想調査をした別のリストもはいっている可能性があり、徹底解明が重要になっています。


事件の発覚と真相隠しの経過(4日現在)

 5月28日 「防衛庁が、情報公開法に基づく請求者100人以上の身元を独自に調べてリストにまとめ、幹部らの間で閲覧している」と「毎日」が報道。

  同日 防衛庁・柳沢協二官房長が記者会見。身元リストは海上幕僚監部情報公開室担当だった三等海佐(48)が「個人資料」として作成。「上司や同僚らに配布していた」と公表。

  同日 海幕で発覚したリストと同種のものを作成していた陸・空の幕僚監部で、LAN(構内情報通信網)運用を停止。問題のリストをひそかに削除。

  29日 中谷元・防衛庁長官が、衆院有事法制特別委員会で日本共産党・赤嶺政賢議員の質問に、「個人的な判断で行っていたかどうかについては、本当に個人かな、という気がしている」と組織的関与についての調査を表明。

  同日 防衛庁内局でもLANの運用を停止し、作成していた問題のリストをこっそり削除。

  30日 伊藤康成防衛事務次官が、記者会見で6月3日に調査報告発表の意向表明。

 6月3日 中谷長官が記者会見。海幕のほか、内局、陸上、航空両幕僚監部でも職業や会社名など個人情報を盛り込んだリストを作成していた事実が分かったと発表。これらがLANに掲示され、防衛庁・自衛隊内で利用できるようになっていたことも認める。

  同日夜 中谷長官がふたたび記者会見。リスト作成について「組織的というならそういう風に思う」と認める。組織的隠ぺいの可能性についても「LANをなぜ止めたのか、首をかしげる。調べる必要がある」。

  4日午前 中谷長官が記者会見。最終調査結果報告の公表は来週半ば以降にずれ込むとの見通し示す。


裏司令部でもあるのか

リスト被害者

 「どう見ても隠ぺい工作だ」――。防衛庁の組織ぐるみの違法行為と隠ぺい工作まで明らかになってきたリスト問題。情報公開請求をした被害者は、防衛庁への不信をさらにふくらませています。

 「『影の軍隊』のように、裏司令部でもあるのかと思う」。リスト作成が組織ぐるみだと判明したことについて、軍事問題研究会代表の桜井宏之さんはこういいました。「影の軍隊」は自衛隊の秘密情報部隊の存在を告発した本紙連載の本のタイトルです。

 「組織的な名誉棄損をしているわけだから、被害者に謝罪するなら、きちんと損害賠償をしてもらわないと受け入れられない。情報もしっかり出してもらう。だれが記録を見たのかわからないなどと、いいかげんでは許されない」

 リストに名前を記載されたフリーライターの井上静さんは「やっぱり」と繰り返しました。「最初の説明はやっぱりウソだった。個人でやったとか、問い合わせのためとか、根拠もなくいいまくっていたということ」「LANを止めていたり、防衛庁がやっているのは、隠ぺい工作ですよね、どう見ても」

 


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