2002年6月4日(火)「しんぶん赤旗」
関西の私鉄大手、阪急電鉄で、五十五歳以降も運転士や車掌を続けられる「新シニアパートナー制度」が四月からスタートしました。ところが希望者の七割が乗務「不適格」と判定され、にわかに安全問題がクローズアップ。「阪急さん、安全は大丈夫でっか」の声があがっています。(名越正治記者)
「『不適格』のらく印を押されるとは、思いもよりませんでした」。京都線(梅田―河原町)の車掌、斉藤充男さん(54)は悔しがります。三月、運転係長から「クレペリン検査で不適格の結果がでました。乗務できません」と通告されました。
「なんでですか」と聞く斉藤さん。係長は「私は、検査結果を伝えるだけですから」といいわけするだけです。京都線の十人の希望者のうち、六人が“失格”しました。
宝塚線(梅田―宝塚)でも、希望者の三人全員が「不適格」とされました。実に十三人中九人が「不適格者」です。
阪急はこれまで、運転士や車掌が五十五歳になると駅業務に転用、従事していました。昨年の労資交渉で、希望すれば五十五歳以降も運行距離が短い低速運転の線区、箕面線(石橋―箕面)や嵐山線(桂―嵐山)に乗務できる制度導入を合意しました。
京都線の六人は、阪急労組(私鉄総連加盟)に要望書を提出し、「不適格」にされた経緯を職場の掲示板に張りだしました。労働者は「ひどい話や」「先輩が『不適格』になるんやったら、現役にも危ない運転士や車掌がいるということか」と口々に話しました。
阪急は三年に一度、クレぺリン検査を実施してきました。これは「あくまで参考。検査結果で乗務の可否を問わない」(労資交渉結論)もので、過去に乗務を降ろされた労働者はいません。
「不適格」とされた車掌のなかには、優秀な乗務員がなる新人教育の指導員もいます。十三人全員が三十年以上も無事故を通したベテランです。
斉藤さんも三年前に検査を受け、この時も含め乗務で問題になったことは一度もありません。
同じ京都線の車掌、奥村安雄さん(54)は「大半の私鉄で実施していますが、年齢がいったからといって、個人の作業ぶりが大きく変わることはないといわれています。七割も『不適格』というのは他社でも聞いたことがない」と指摘します。
会社側は「鉄道事業にとって、信用を成す最大の要素は『安全輸送の確保』にある」(鉄道事業本部長)としています。
しかし、阪神大震災の翌一九九六年に「新生阪急三カ年計画」を、九九年から「第二次三カ年計画」をすすめ、車両や電気、工務の技術職場を次々と分社化。一昨年十月には、乗務と駅の職場の大「合理化」で駅員の一人配置、運転士の泊まり勤務導入を実施し、人員を削減してきました。
阪急の「不適格」攻撃は、利用者の安全・サービス向上と労働者の労働条件を守れと堂々とものをいう労働者をじゃまな存在として排除するねらいがあります。
斉藤さんや奥村さんらは「車いすの乗客に対応できるよう、駅員の一人配置をやめろ」「安全軽視の労働強化をやめ、人員増をはかれ」と一貫して主張してきました。
管理職は「君らを降ろす口実でしかない。これ(不適格)はうそや」。職制も「人を減らせ、利益をあげろとやられっぱなし。会社にガツンといってくれ」と語ります。
十三(じゅうそう)駅東口の無人化問題で、斉藤さんらは商店主から要望を聞いて回りました。こうしたなか、十三東商店街は「風紀の問題を含め、駅員がいるといないでは大違いや。もっとお客を大事にする人情味のある商売をしないと…」と駅員を配置するよう阪急に要望しました。
「社員と会社とどっちがお客の方を向いているか、みんなちゃんと見抜いています」と商店主。
斉藤さんらはクレペリン検査を悪用して「不適格」とすることは許せないと四月、大阪労働局にあっせんを申請(阪急は拒否)。五月十六日には茨木労働基準監督署に再度出向き、組合本部にも要請。会社の不当性を訴え、安全輸送と権利を守る世論を広げようとしています。
クレペリン検査
一けたの数の計算を一定時間実施し、その結果で性格や作業のスピードや作業ぶりを測定する検査。