日本共産党

2002年6月1日(土)「しんぶん赤旗」

治安維持法

「ポツダム宣言で失効」

横浜事件再審請求 京大教授が鑑定


 第二次世界大戦中に総合雑誌の編集者、執筆者が治安維持法違反容疑で神奈川県警の思想警察(特高警察)に逮捕された「横浜事件」(注)の元被告と遺族らが再審を求めている件で横浜地裁に五月二十八日、新たな証拠となる鑑定意見書が提出されました。

 鑑定は昨年五月二十九日、弁護団から請求されていたもので、一九四五年八月のポツダム宣言受諾で(1)直ちに国内法秩序に影響・効果が生じたか(2)「明治憲法」の存在、効力にいかなる影響があったか(3)治安維持法など思想関係の法律の場合はどうか―など三点について請求。同地裁の委嘱を受けた大石眞京大教授(憲法学)が鑑定しました。

 大石鑑定(別項)は、明治憲法自体、ポツダム宣言と抵触する限り、失効し、その他の諸法令も同様とした上で、言論、宗教、思想の自由を禁じた治安維持法の規定も「ポツダム宣言の受諾で失効したと解すべきだ」と述べています。

 元被告らは繰り返し再審請求をしてきましたが、裁判所は「原判決の原本および訴訟記録も存在しない」(八八年十二月東京高裁)として退けてきました。

 弁護団はこれに対し、言論、集会、結社の自由を禁じた明治憲法と治安維持法は、ポツダム宣言の受諾で失効し、これらの権利は全面的に回復した、として無罪を主張していました。

 再審が認められるのは旧刑法では「新たな証拠」が示された場合、とされており、今回の大石鑑定が新証拠として採用される可能性は高く、弁護団では「再審はほぼ確実」とみています。

 戦前、天皇制専制政治の下、多数の共産党員や自由主義的な考えを持つ人々が治安維持法違反容疑で検挙(送検者約七万五千人)され、戦後復権しました。治安維持法をめぐる裁判では政治犯に問われ法廷でたたかった日本共産党の宮本顕治氏の例があります。同事件は戦後、「刑の言い渡しを受けざりしものとみなす」とされ、法的に決着しました。


 鑑定要旨

 一、ポツダム宣言の受諾により、国際法上は、その条項を誠実に履行する義務を負う。その条項を国内的に実行することが政府、国民に課せられた至上命令になり、不履行はまったく許されない。

 一、ポツダム宣言の受諾は、天皇自らが、統治権を放棄したものと考えられる。明治憲法自体、ポツダム宣言と抵触する限度において失効し、付属法令も失効するとともに、天皇制に関する規定も、天皇の始源性・総攬(そうらん)性も失効するとすれば、君主主義と密接に関連する思想関連法規も同様に影響・効果が生じる。

 一、「国体」の意味は「万世一系の天皇君臨し統治権を総攬し給ふこと」と解釈されている。したがって、これと密接に関連する治安維持法の諸規定はポツダム宣言受諾により効力を失ったと解すべきである。

 一、治安維持法の諸規定のうち、私有財産制度の否認に関わるものについては、「言論、宗教及思想ノ自由……ハ確立セラルベシ」との規定に抵触する疑いがきわめて強い。したがってそれらの規定もポツダム宣言の受諾により失効したと解すべきものである。

 注・横浜事件 戦前の一九四二年ごろから四五年にかけて、「改造」「中央公論」などの雑誌編集者ら六十人が、「特別高等警察」(特高)に検挙された事件。日本の軍事政策に欠陥があると指摘した細川嘉六の論文を「共産党の宣伝だ」と陸軍大佐が攻撃したのをきっかけに、細川ら関係者を逮捕、拷問にかけました。裁判では四五年九月、懲役二年、執行猶予三〜四年が言い渡されましたが、関係者が無罪を主張、再審を請求しています。

 


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