2002年5月19日(日)「しんぶん赤旗」
ニューヨークの国連本部で八―十日に開催された国連子ども特別総会は、世界の子どもが直面する深刻な問題と、世界平和の重大課題としてそれらに対処する国際社会の努力が示される場となりました。会議で特に議論となった子ども労働、エイズ、戦争の問題について、現状と取り組みをみてみました。(ニューヨークで遠藤誠二、坂口明)
一日に八千人の青年が感染し、千三百万の子どもが孤児になっています |
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十五歳から二十四歳までの青年がHIV(エイズウイルス)に感染する数は一日に八千人以上、毎分六人が感染――国連子ども特別総会に提出されたアナン事務総長の報告書『われら子どもたち』は、衝撃的な数字を紹介しました。
子どもとエイズ。一九九〇年の「世界子どもサミット」開催時にはほぼなかった問題で、今総会では国際社会が真剣に取り組むものとして新たに位置づけられました。
アナン報告はさらに、二〇〇〇年までに約一千万人の青年がHIVに感染し、同年だけで十五歳以下の子ども五十万人が死亡、六十万人の幼児が毎年死亡し、一千三百万人の子どもが親を失い孤児となった(うち95%がアフリカに集中している)―など深刻な数字を列挙しています。
八日、総会初日の演説で、東アフリカ・ケニアのサイトティ副大統領は、エイズウイルス感染の問題は教育など他の分野にも影響を及ぼしていることを説明しました。
「エイズ感染による病気で学校を辞めていく子どもが増え、教育分野にも脅威を与えている。またエイズ孤児は、財政的な基盤がなくなり、虐待と病気、栄養不良にさらされている」「一国における児童福祉の推進にたいして、エイズは主要な障害物となってしまった」
約二億五千万人の子どもが労働に従事しています。それはアジア、アフリカに集中しています |
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「一億八千万の子どもが搾取的な労働に押し込められている。これは子どもを搾取するおとなの問題、このことを決して忘れてはいけない」―子ども特別総会の最終日に演説にたった国際労働機関(ILO)のソマビア事務局長はこう訴えました。
世界の子ども労働の数(単位:人) | |||
5−14歳 | 15−17歳 | 全体 | |
経済活動に従事 | 2億1000万 | 1億4000万 | 3億5000万 |
うち労働に従事 | 1億8600万 | 5900万 | 2億4500万 |
うち危険な労働に従事 | 1億1100万 | 5900万 | 1億7000万 |
(ILOの報告書『子どもの労働のない未来』から作成) |
特別総会に向けてILOが発表した報告書『子どもの労働のない未来』によると、世界では五歳から十四歳までの子ども一億八千六百万人、十五歳から十七歳の子どもを入れると二億四千五百万人が労働に従事、うち危険な労働についている子どもは一億七千八百万人にものぼります。域別にみると、アジア太平洋が全体の60%の一億二千七百万人、次いでサハラ以南のアフリカが同23%の四千八百万人(五歳から十四歳が対象)となっています。
国連などの調査によると、南アジア地域では四千三百万人の子どもが労働を強いられています。例えば、バングラデシュの首都ダッカでは十四歳以下の子ども三十万人が家政婦などの家事労働に従事。国連児童基金(ユニセフ)南アジア地域事務所と非政府組織(NGO)が発表したリポートは、十三歳になる女の子ベガムちゃんの一日を紹介しています。
母と死別し父が再婚、義母に働きに出るよう命じられたベガムちゃんは、朝六時の朝食の準備から始まり、掃除、洗濯、そして昼食・夕食の用意まで、途中一時間の休憩以外、夜の十一時までこき使われ、休暇は一切無し。そして月給はわずか百タカ(三百円)です。また時々、雇用主から暴力を受けるといいます。
地域紛争の拡大で子どもの難民が増え、それを土壌に世界で三十万人以上の子ども兵士が生まれています |
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「私たちは難民キャンプで生まれ、遊び場はキャンプのスラムだけです。ラマダン(イスラム教の断食月)の時に遊んでいたらロケットが飛んできて、子ども一人が死に、四人が負傷しました。指がつぶれ、とても深く傷ついた体験でした」――パレスチナ・ヨルダン川西岸のラマラから国連子ども特別総会に参加したアブ・ラクティさん(15)は記者会見で語りました。
『われら子どもたち』によると、世界子どもサミットが開かれた一九九〇年に千五百万人だった世界の難民は、いま二千二百三十万人。うち十八歳未満の子どもは七百万人から千百万人に増大しました。
この子ども難民が、子ども兵士の温床になっています。特別総会に向けたユニセフ報告では、子ども兵士は世界三十カ国以上に三十万人以上もいます。最年少は八歳です。
ウガンダ北部で子ども救済活動をするベティ・オペニさん(17)は特別総会パネル討論会で、「子ども兵士の問題が注目されていますが、それよりもっと多くの少女が(強制労働や売春のために)誘拐されています」と述べました。
戦争は、栄養不良、健康破壊、教育機会のはく奪、家族の破壊など、「子どもの発達の全側面に影響を及ぼす」とアナン報告は指摘します。
モザンビーク元教育相のグラサ・マシェルさんが、武力紛争の子どもへの影響についての国連報告をまとめたのが九六年。以後、子どもと武力紛争の問題は次第に国際政治の重要課題の一つに位置づけられるようになりました。
二〇〇〇年に国連総会が採択した、武力紛争への子どもの関与に関する子どもの権利条約選択議定書は、十八歳未満の子どもの武力紛争参加と徴兵を禁止。七月発効が決まった国際刑事裁判所設立条約は、少年の徴兵や強制売春を戦争犯罪と規定しています。
国連子ども特別総会は最終結果文書『子どもにふさわしい世界』で世界の子どもの状況を改善するため、4つの分野で21項目からなる行動計画を採択しました。
●5歳未満児死亡率(出生千人に81人)を2015年までに3分の2削減を目標に3分の1以上減らす
●妊産婦死亡率(出生10万人に400人)を15年までに3分の1以上減らす
●5歳未満児の栄養不良(発展途上国で27%)を3分の1以上減らす。
●衛生施設や安全な飲用水を利用できない家庭(11億人)を3分の1以上減らす
●10年までに初等教育を受けられない子ども(18%)を半減し、就学率を90%以上に高める
●05年までに初等、中等教育の男女格差をなくし、15年までに教育での男女平等を達成する
●成人の識字率(79%)を15年までに50%改善する
●あらゆる形の虐待、放置、搾取、暴力から子どもを保護する
●武装紛争の影響から子どもを保護する(00までの10年間で200万人が死亡)
●小児性愛、人身売買、誘拐を含むあらゆる形の性的搾取から子どもを保護する
●最悪の形態の子ども労働の廃絶のための効果的な手段を即時講じ、こども労働の廃絶のための戦略を作成し実施する
●15〜24歳のエイズ感染者を10年までに25%減らす目標達成のための各国目標を03年までに確立する
●幼児のエイズ感染率を2005年までに20%減らし、10年までに半減させる
(抜粋 かっこ内数字は2000年)