2002年5月17日(金)「しんぶん赤旗」
福田康夫官房長官は十六日の衆院有事法制特別委員会で、「武力攻撃事態法案」が発動される「武力攻撃事態」についての政府見解を示しました。
福田長官は、「武力攻撃事態」について、(1)武力攻撃が予測される事態、(2)武力攻撃(武力攻撃のおそれのある場合を含む)が発生した事態――と説明。「武力攻撃」とは「我が国に対する外部からの組織的、計画的な武力の行使」とし、その「態様」は「攻撃の規模の大小、期間の長短、攻撃が行われる地域、攻撃の態様等も様々」で「一概に言えない」としました。
政府はこれまでの審議で、公海上や他国領域内で活動する自衛隊への攻撃も「武力攻撃」に含むと説明しています。「攻撃が行われる地域」も「様々」だとして限定しなかったのは、このことを裏付けるものです。
(1)の武力攻撃が「予測される事態」については、「武力攻撃の意図が推測されることなどからみて、我が国に対する武力攻撃が発生する可能性が高いと客観的に判断される事態」とし、「攻撃の意図」が示されていなくても「推測」だけで認定可能との立場を示しました。事例としては「予備役の招集や軍の要員の禁足、非常呼集」をあげました。
(2)にある武力攻撃の「おそれのある場合」については、「我が国への武力攻撃の意図が明示されていることなどからみて、我が国への武力攻撃が発生する明白な危険が切迫していると客観的に認められる場合」としました。事例として「多数の艦船あるいは航空機を集結させていることなど」をあげました。
いずれの事例も、日本への大規模な武力侵攻を前提とした、非現実的な想定です。
政府見解は、これらの事態の認定について、内閣総理大臣が作成する「対処基本方針に定める」と指摘。首相の判断に委ねられることを明らかにしました。
国連憲章五一条は、「武力攻撃が発生した場合」にのみ自衛反撃ができるとしていますが、法案は、武力攻撃を受けていない「予測」や「おそれ」の事態での武力行使に歯止めがありません。
政府見解は、首相の勝手な判断で、日本が国際法違反の武力行使に乗り出す危険があることを改めて示しています。
政府が十六日、衆院有事法制特別委員会で示した「武力攻撃事態対処法案にいう『武力攻撃事態』について」「指定公共機関について」の二つの政府見解(全文)は次のとおりです。
(1)武力攻撃事態とは、(1)「事態が緊迫し、武力攻撃が予測されるに至った事態」と、(2)「武力攻撃(武力攻撃のおそれのある場合を含む。)が発生した事態」を指すものである。
(2)ここで、武力攻撃とは、我が国に対する外部からの組織的、計画的な武力の行使をいうものである。また、武力攻撃を加えてくる主体としては、国だけでなく、国に準ずる者もあり、攻撃の規模の大小、期間の長短や攻撃が行われる地域、攻撃の態様等も様々であり、武力攻撃の態様は一概に言えないものである。
武力攻撃事態対処法案において、現実に武力攻撃が発生した事態に加えて、「事態が緊迫し、武力攻撃が予測されるに至った事態」及び「武力攻撃のおそれのある場合」を含めて武力攻撃事態としているのは、国民の生命、身体及び財産を守るため、武力攻撃に対して時機を失することなく効果的に対処し得るようにするとの考え方に基づくものである。
(3)また、武力攻撃事態対処法案においては、武力攻撃事態の認定は、対処基本方針に定める事項とされている。さらに、この対処基本方針は、閣議で決定された後、直ちに国会の承認を求めることとされている。
(1)「事態が緊迫し、武力攻撃が予測されるに至った事態」とは、自衛隊法第77条の防衛出動待機命令等を下令し得る事態である。
これは、その時点における国際情勢や相手国の動向、我が国への武力攻撃の意図が推測されることなどからみて、我が国に対する武力攻撃が発生する可能性が高いと客観的に判断される事態である。
(2)「事態が緊迫し、武力攻撃が予測されるに至った事態」とはどのような事態であるかについては、事態の現実の状況に即して個別具体的に判断されるものであるため、仮定の事例において、限られた与件のみに基づいて論ずることは適切でないと考える。
その上であえて申し上げれば、例えば、「武力攻撃のおそれのある場合」には至っていないが、その時点における我が国を取り巻く国際情勢の緊張が高まっている状況下で、ある国が我が国への攻撃のため部隊の充足を高めるべく予備役の招集や軍の要員の禁足、非常呼集を行っているとみられることや、我が国を攻撃するためとみられる軍事施設の新たな構築を行っていることなどからみて、我が国への武力攻撃の意図が推測され、我が国に対して武力攻撃を行う可能性が高いと客観的に判断される場合は、「事態が緊迫し、武力攻撃が予測される事態」に該当すると考えられる。
(1)「武力攻撃(武力攻撃のおそれのある場合を含む。)が発生した事態」は、自衛隊法第76条の防衛出動を下令し得る事態である。
ここで、「武力攻撃のおそれのある場合」とは、同条の規定する防衛出動下令の要件の一つである「武力攻撃のおそれのある場合」と同じである。
これは、その時点における国際情勢や相手国の軍事的行動、我が国への武力攻撃の意図が明示されていることなどからみて、我が国への武力攻撃が発生する明白な危険が切迫していることが客観的に認められる事態を指すものである。
(2)武力攻撃のおそれのある場合とはどのような場合であるかについては、上記2(2)と同様、事態の現実の状況に即して個別具体的に判断されるものであるため、仮定の事例において、限られた与件のみに基づいて論ずることは適切でないと考える。
その上であえて申し上げれば、例えば、ある国が我が国に対して武力攻撃を行うとの意図を明示し、攻撃のための多数の艦船あるいは航空機を集結させていることなどからみて、我が国に対する武力攻撃が発生する明白な危険が切迫していると客観的に認められる場合は、「武力攻撃のおそれのある場合」に該当すると考えられる。
1 武力攻撃事態対処法案(以下「法案」という。)第2条第5号において、指定公共機関は、「独立行政法人、日本銀行、日本赤十字社、日本放送協会その他の公共的機関及び電気、ガス、輸送、通信その他の公益的事業を営む法人で、政令で定めるもの」と定義されている。
2 ここでいう「公共的機関」とはその業務自体が公共的活動を目的とする機関をいい、「公益的事業を営む法人」とはその業務目的は営利目的等であるが、その業務が公衆の日常生活に密接な関係を有する法人をいうものと解している。
3 法案第6条において、「指定公共機関は、国及び地方公共団体その他の機関と相互に協力し、武力攻撃事態への対処に関し、その業務について、必要な措置を実施する責務を有する」ものと定められている。また、指定公共機関が実施する対処措置については、法案第2条第6号において、「法律の規定に基づいて実施する」ものと定められている。
4 実際にいかなる機関を指定公共機関として政令で指定するかについては、今後、まず、個別の法制において、指定公共機関に実施を求めることが必要となる対処措置の内容を具体的に定めた上で、個別の法制が定める事項ごとに当該機関の業務の公益性の度合いや、武力攻撃事態への対処との関連性などを踏まえ、当該機関の意見も聴きつつ、総合的に判断することとなる。
5 したがって、今後整備される個別の法制においては、指定公共機関に実施を求めることが必要となる対処措置の具体的な内容が法定されることから、指定の対象となる公共機関の範囲も明らかになるものと考えている。
6 放送事業者については、警報等の緊急情報の伝達のために指定公共機関として指定することを考えている。民間放送事業者が指定される可能性はあるが、現時点では、日本放送協会(NHK)を主として考えている。また、新聞については、警報等の緊急情報の伝達の役割を担うことは一般には考えにくい。
なお、テレビや新聞等の報道機関に対し、報道の規制など言論の自由を制限するようなことは全く考えていない。
7 自然災害の場合と武力攻撃事態とでは、講ずべき措置の内容は異なるが、災害対策基本法の指定公共機関を参考にしつつ、指定の対象とする公共機関について検討する考えである。
なお、災害対策基本法の規定に基づき、現在60の指定公共機関が指定されている(別紙)。
(別紙)災害対策基本法により指定されている指定公共機関(60機関) 平成13年3月30日内閣府告示第4号
(1)公共的機関
(1)独立行政法人(11)
(独法)消防研究所、(独法)防災科学技術研究所、(独法)放射線医学総合研究所、(独法)農業工学研究所、(独法)森林総合研究所、(独法)水産総合研究センター、(独法)土木研究所、(独法)建築研究所、(独法)海上技術安全研究所、(独法)港湾空港技術研究所、(独法)北海道開発土木研究所
(2)特殊法人(21)
日本放送協会、日本道路公団、首都高速道路公団、水資源開発公団、阪神高速道路公団、新東京国際空港公団、関西国際空港(株)、本州四国連絡橋公団、核燃料サイクル開発機構、日本原子力研究所、電源開発(株)、北海道旅客鉄道(株)、東日本旅客鉄道(株)、東海旅客鉄道(株)、西日本旅客鉄道(株)、四国旅客鉄道(株)、九州旅客鉄道(株)、日本貨物鉄道(株)、日本電信電話(株)、東日本電信電話(株)、西日本電信電話(株)
(3)認可法人(2)
日本銀行、日本赤十字社
(2)公益的事業を営む法人
(1)電力(11)
北海道電力(株)、東北電力(株)、東京電力(株)、北陸電力(株)、中部電力(株)、関西電力(株)、中国電力(株)、四国電力(株)、九州電力(株)、沖縄電力(株)、日本原子力発電(株)
(2)ガス(3)
東京瓦斯(株)、大阪瓦斯(株)、東邦瓦斯(株)
(3)輸送(1)
日本通運(株)
(4)通信(11)
KDDI(株)、(株)NTTドコモ、(株)NTTドコモ北海道、(株)NTTドコモ東北、(株)NTTドコモ北陸、(株)NTTドコモ東海、(株)NTTドコモ関西、(株)NTTドコモ中国、(株)NTTドコモ四国、(株)NTTドコモ九州、NTTコミュニケーションズ(株)