2002年5月16日(木)「しんぶん赤旗」
イスラエルのシャロン首相が党首を務める与党の右派・リクードの中央委員会は12日、「パレスチナ国家樹立反対決議」を可決しました。この決議は、米国を含め欧州連合(EU)やアラブ諸国など全世界から非難を浴びています。シャロン政権のパレスチナ自治区破壊とパレスチナ人の殺りくで逆に高まってきたパレスチナ問題の解決への期待の流れに逆行するものです。
リクードの決議直後にイスラエル紙イディオト・アハロノト紙が発表した国内世論調査では、約六割のイスラエル人がパレスチナ国家の創設に同意する用意があると答えるなど同決議に批判的です。ハーレツ紙の十四日付社説は、「リクードの決議は現在までの(イスラエルの)政策とあらゆる首相の行動に反している」と強く批判しています。
今回の決議の背景には、党首返り咲きを狙うネタニヤフ元首相が同党の強硬派を固めようとの思惑があります。リクードは、同党の綱領でパレスチナ国家樹立を拒否、パレスチナにたいする強硬姿勢でイスラエル国内の強硬派の支持を得てきた政党です。
これは、同首相が過去一年三カ月間続けてきた軍事力に訴えるだけの強行路線にたいする圧倒的な国際世論とイスラエル国内の非難の高まりを意識した上での行動だとみられます。
シャロン首相は二〇〇一年四月にパレスチナ国家建設を含む暫定和平合意を行う考えを明らかにしています。この「パレスチナ国家」とは、飛び地になっている状態など極めて限定的な「領土」に建設されるというものです。
シャロン首相は、パレスチナ自治政府を「独裁的かつ腐敗したテロ組織」などと決めつけ、「異なった政権が必要だ」と同政府のアラファト議長の追い落としを露骨に表明。パレスチナの内政に干渉し、イスラエルの意のままになる自治政府をつくることを狙っています。
EU議長国スペインのピケ外相は、パレスチナ国家を認めることが中東問題の「唯一の解決法」だとのべ、シリアのシャラ外相は十三日、決議が真の中東平和を願うアラブ諸国へのイスラエルの答えだと批判するとともに、シャロン首相が中東和平に関するいかなる会議にも参加するにふさわしい人物ではないとのべました。
ヨルダン・タイムズ紙は十三日付の社説で、イスラエルの現政権与党が極めて危険な道徳観を持っており、「平和を探求していない」と批判しています。
国連安保理は三月十三日、「イスラエルとパレスチナの二つの国家が共存する地域という将来像を肯定する」として将来的なパレスチナ国家を認めるとする決議を採択しました。
アラファト議長は十二日、CNNとのインタビューで「パレスチナ人の独立国家がユダヤ人によるイスラエル国家とともに築かれることを希望する」とのべています。十一日にイスラエルで行われた十万人の集会では、「イスラエルのために占領地から撤退しよう」という横断幕がかかげられました。
イスラエルのパレスチナ占領地からの全面撤退とパレスチナとイスラエル両者の共存、パレスチナ民族の自決権の実現、そのための国家樹立を認めることは国際的な流れです。(伊藤元彰記者)