2002年5月16日(木)「しんぶん赤旗」
日本外交の基本姿勢がきびしく問われている中国・瀋陽総領事館事件。日本共産党の小泉親司議員は十五日の参院本会議で、外務省、領事館の対応措置の事実関係を政府にただしました。そこで何が明らかになったのか――。対応する政府答弁と合わせて再構成して紹介します。
小泉親司議員 昨日総理は、わが党(松本善明議員)の質問(衆院本会議)にたいし、「本年三月以降、北朝鮮から脱出する者の事案が頻発していることも踏まえ、これらの者が在外公館に侵入した場合を念頭に対処を準備し、関係公館に伝達していた」と答弁した。これへの対処というのは、受け入れ阻止の措置をとるということではないのか。現に阿南(惟茂)駐中国大使は、「不審者が大使館敷地に許可なく侵入しようという場合には、侵入を阻止する」と述べている。
小泉純一郎首相 わが国は在外公館の機能を保全する観点から身元が確認されていない不審者を安易に入館させることはおこなっていない。他方、北朝鮮から脱出した者の扱いについて、一般論をいえば、関係者の人定事項等の事実関係を確認し、同人の希望等を聴取したうえで、当該者の生命、または身体の安全が適切に確保されるか等の人道的観点や関係国との関係を総合的に考慮し、具体的な対応につき検討することになる。したがって、あらゆる場合に受け入れ阻止の措置をとるということではない。
小泉首相は阿南大使の発言については言及しませんでした。一方、川口順子外相は、民主党の木俣佳丈議員から、阿南大使が「ともかく(北朝鮮住民が)来たら追い返せ」と述べた事実はあるのかと質問され、「ご指摘のような事実はない」と答弁しています。
小泉議員 外務大臣は、領事館の門扉が少し開いていたことに関して、閉めておけばよかったと記者会見でのべている。今回のような場合、一切門を閉ざしておく、つまり一切受け入れないというのが日本外務省の方針なのか。
川口順子外相 在外公館の正面ゲート(門)は通常閉じた上で、門扉内側に配置された警備員が、来訪者に訪問目的と身分証明書等を確認し、個々に入構を認めるよう指示している。
脱北者(北朝鮮脱出者)については、中国へ不法入国している者が多いわけだが、いったん館内に入った以上は、人道的見地から保護し、第三国への移動等適切に対処する必要がある。
他方、昨年来、テロに対処するという観点からも、警戒をいっそう厳重にすることは当然で、不審者が大使館敷地等に許可なく入構・侵入しようとする場合には、規則通り門外で事情聴取するということだ。
事件の焦点の一つは、中国の警察官による領事館立ち入りと北朝鮮から脱出してきた五人の連行に日本側がどういう態度を示したかです。
小泉議員 北朝鮮脱出者五人のうちの一人が、警備担当副領事に手紙を渡したが、副領事はその手紙を読んだあと、本人に返したことが明らかになっている。
この手紙には、脱出者の希望が書かれていたはずだ。それを返したということは、事実上、受け入れ拒否の意思表示をした、手紙ごと中国側に引き渡したということになるのではないか。この重要な事実が、外務省報告ではなぜ記載されていないのか。
外相 警備担当の副領事は、武装警察詰め所で関係者五名のうちの男性一名から英語でタイプ打ちされたメモ二枚を見せられたが、内容が理解不能であったため、そのまま本人に返した。
先般公表した調査結果は、わが方と中国側で事実認識が異なる点を中心に記述したものなので、(脱出者から渡された)メモについては同調査結果では言及しなかった。
小泉議員 川口外務大臣も、十三日の記者会見で、北朝鮮からの亡命希望者に対する対応策について、「対処ぶりあるいは考え方ということは作ってあり、関係の公館にはそれを伝えてある」とのべている。外務省はなぜ公表しないのか。
このなかには、北朝鮮から脱出した人々についての対応が含まれているのか。瀋陽総領事館の今回の対応は、この考えに明確に沿っていたものなのか、それとも違った対応であったのか。
外相 脱北者に関する対処ぶりの内容は、関係者の生命にかかわることであるので、公表は控えたい。
小泉議員 警察官が総領事館に立ち入ることに日本側が同意していたのかどうか。
最初の立ち入りについて、外務大臣は昨日、「中国側警察の総領事館立ち入りの際、我が方総領事館員は、いずれもそのことを明確に認識しておらず」と答弁した。なぜ、立ち入ったと認識しなかったのか。
政府は、中国側警察官が公館敷地内に入り、女性ら三名を敷地外に連れ出した今回の行為が、領事関係ウィーン条約第三一条の不可侵の規定には入らないと解釈するのか、あるいは査証待合室まで立ち入れば条約違反と考える見解なのか。
外相 査証担当副領事が正門付近に到着したころには、武装警官らは、門にしがみついている女性を引き離そうとしており、その事件で副領事は(武装警官が)敷地内に立ち入っていたという認識はなかった。
副領事が正門付近から査証待合室に戻る際、五、六名の武装警官が背後から入ってきたため、彼らには気づかなかった。
(中国側の領事館への立ち入りと連行は)領事関係に関するウィーン条約三一条、及び人道上の観点から極めて問題であると考えている。
小泉議員 中国側警察官が敷地内を通って査証待合室にまで立ち入り、二人の男性を連行する際、総領事館員はどういう対応をしたのか。
報告書では、中国側警官は「副総領事の横をすりぬけ」「副総領事が言葉を発する間もなく」、査証待合室から門外に連れ出したと説明している。
男性二人が座っている時間あるいは、査証待合室から玄関までの約三十メートルの間、連行されていく後を追っていたにもかかわらず、副総領事は本当にひとことも抗議の声を発しなかったのか。時間的ゆとりはあったはずなのに引き渡しを要求することをまったくしなかったのか。
外相 男性二人が待合室から連行された際には、現場にいた副領事から抗議を行う時間的余裕はなかった。
小泉議員 日本は難民の受け入れについて、国際的にもっとも門のせまい国として、“時代遅れ”と指摘されている。今回の事件からの教訓として、このような現状を打開する必要がある。難民問題や他国からの出国者問題についてはいっさい見直しをしないというのか。
首相 難民受け入れのあり方については国の内外における人道、人権に関する意識の動向に十分配慮しつつ考える。