2002年5月14日(火)「しんぶん赤旗」
川口外務大臣は、瀋陽の日本総領事館事件について十三日に発表した調査結果で、北朝鮮の五人の住民に対して中国の武装警官が行った行為に「同意を与えたとの事実はない」としました。この外務省発表は、中国側発表との食い違いを改めて示す一方で、日本側の対応のあいまいさと不手際も明らかにしています。
中国側は十日に外務省報道官の談話として事件の経緯を発表しました。総領事館内に入った二人の北朝鮮男性の連行について、「副領事の一人の同意を得た後、館内に入って二人を連れ出した」とし、五人の連行については、日本側が「同意し、武装警官の努力に謝意を表明した」としています。
一方、外務省の発表によれば、正門での騒ぎについて「けんか程度の認識」でその後、査証担当副領事が査証申請待合室に戻った直後、五、六人の武装警官が「日本側の同意を得ることなく立ち入」ったとしました。副領事が急きょ館内に戻ったときには、二人の男性が「北朝鮮出身者の可能性があることを認識」していたことが明らかにされています。
男性二人が連行されたのは、副領事が待合室で男性を確認したのと同時で、「武装警官が副領事の横をすり抜け」連行していったといいます。外務省の発表によれば、この時点で、中国側は領事館側の了解を得ていませんが、日本側は、同意もなく入ってきた中国側に対して抗議もしていません。
さらに、二人の男性と二人の女性と子どもの計五人が領事館の外の武装警官詰め所に連行された際、外出先から戻った警備担当の副領事は、中国側と話し合う一方、査証担当副領事が総領事を通じ外務省にも連絡。そのとき、本省の担当者からは「とりあえず国際法上の問題を指摘しつつ、追って連絡する旨」が伝えられていたといいます。五人が北朝鮮から来た家族と判明した後、「現状を維持せよ」と指示を出し、さらに抗議して五人の身柄を構内に戻すよう指示しようとしたといいますが、電話が通じず、指示は最後まで伝わらなかったなどとしています。
警備担当副領事は、警察詰め所の入り口で立ちふさがり、「両手を大きく広げ」て身振りで動きを制止したといいます。しかし、傍らにいた査証担当副領事が連絡を取った北京の日本大使館の公使は電話で、五人がすでに敷地外に出されていること、武装警官にこれ以上あらがって物理的に押しとどめることもできないとの理由から、「無理はするな、最終的には連行されても仕方がない」と述べたことが明らかにされました。この点でも、日本側の取った態度があいまいだったことは否めません。
総領事館側が「不測の事態を招く」とあきらめ、中国側の連行を許したことについて、記者会見した川口外相に対しても記者から、中国側に「暗黙の了解を与えたのではないか」と厳しい指摘がされています。日中双方の言い分が大きく隔たるなか、「真相がどこにあるかを解明することが一番急がれる」(日本共産党の市田書記局長)一方で、五人の引き渡し阻止に断固とした措置を取らなかった日本側の対応が今後、問われる可能性が出てきています。(鎌塚由美記者)