2002年5月13日(月)「しんぶん赤旗」
財界と政府は雇用政策の柱として「雇用多様化の推進」を唱えています。中身はパート・アルバイトや派遣など不安定雇用をさらに拡大することです。この方向は、日本社会の前途にとっても由々しき問題です。
すでに不安定雇用の労働者は千三百七十七万人に達し、雇用者全体の26%を占めます。この六年間で約三百八十万人も激増しています。
増加の原因は、リストラに走る企業が、正規雇用を減らし、不安定雇用に置き換えているからです。
「勤労者の働き方の選択肢を増やす」という財界や政府の主張には、大きなごまかしがあります。
財界は、不安定雇用を単に賃金コストが安くて使い捨てが容易な労働力としか見ていません。
実際に、パートや派遣社員は正規雇用に比べて賃金は半分程度で、格差は拡大の傾向にさえあります。一時金や退職金、休暇や通勤手当まで大きな格差があります。
財界の二十一世紀戦略は、長期雇用は基幹社員だけにし、その他は不安定雇用として、低コスト体制をつくり、高収益をあげることです。
政府が派遣労働や有期雇用契約をいっそう使いやすくする規制緩和を進めているのは、この財界戦略を支援するためです。
「雇用の多様化」を進めれば社会はどうなるのか―。労働者は働いてもまともに生活ができなくなります。未来を担う若者は、希望を持って学び、働くこともできません。
企業がひたすら人件費を削減するだけでは、国民の所得と消費、生産が連鎖的に落ち込む悪循環をさらに深めるだけです。
パートやアルバイトを正社員と対等の人格として扱わない差別は、憲法の定める平等の原則に背きます。
丸子警報器事件の判決が、臨時社員への著しい賃金格差は、同一労働同一賃金の原則の根底にある均等待遇の理念に違反するとしたことからも明らかです。
日本のパートや派遣労働のひどい実態と差別は、世界の流れにも反する時代錯誤のものです。
EU(欧州連合)は、パートへの差別を禁じ、同一労働同一賃金の原則を確立し、パートとフルタイムとの転換も使用者は考慮すべきだと定めています。
派遣労働の場合も、EU諸国は派遣をあくまで例外とし、労働条件についても派遣先の労働者と同一待遇を基本原則としています。
パートとフルタイム労働者との均等待遇の原則は、ILO(国際労働機関)一七五号条約で定められた国際的な基準です。
厚生労働省のパートタイム労働研究会が二月に発表した「中間とりまとめ」は、国際的な原則に背いて、基幹社員以外は賃金の低い「中間形態」の社員としてパートとの均衡を図る方向です。これでは低賃金と差別の仕組みを温存するだけです。
いま求められているのは、低賃金の不安定雇用を拡大することではなく、国際基準にそって賃金と労働条件を抜本的に改善することです。
正社員と同一労働をしているパート・アルバイトなどの賃金は、正社員との均等待遇をめざすこと、少なくとも判例で違法とされた正社員の八割まで引き上げることです。
派遣労働や有期雇用契約の規制緩和はやめるべきです。不安定雇用労働者の権利を守るため「パート・アルバイト労働者保護法」「派遣労働者保護法」の制定こそ必要です。