日本共産党

2002年5月12日(日)「しんぶん赤旗」

ここが問題 個人情報保護法案〈上〉

報道、表現の自由を侵害


 「この法案は、報道・表現の自由を殺そうとしている」(文学者などが賛同した「個人情報保護法案拒否! 共同アピールの会」の声明)――。今国会で四月末に審議入りした個人情報保護法案にたいし、報道・言論・出版関係者をはじめ広範な国民から強い反対の声があがっています。その最大の問題点は、「個人情報保護」を理由に、報道、表現の自由を侵害する危険性があることです。

 個人情報とは、氏名や住所、生年月日など「特定の個人を識別することができる」情報のことです。法案は、個人情報を取り扱うルールとして、大きく分けて「基本原則」と「個人情報取扱事業者の義務」の二つを定めています。

疑惑政治家の取材も対象に

 「基本原則」では、「個人情報を取り扱う者」にたいし、個人情報を「適法かつ適正な方法で取得する」ことや、取り扱いにあたり「本人が適切に関与し得るように配慮」することを求めています。その対象には報道機関も含まれます。

 そうなると、マスコミに疑惑を追及されている政治家が、「基本原則」をたてに、本人情報の開示や訂正、取材源の明示を求め、追及から逃れようとすることが可能となります。

 政党も適用対象です。日本共産党が公表した官房機密費の使途についての内部文書や、鈴木宗男衆院議員の疑惑にかかわる外務省内部文書なども、政治家の「個人情報」として取り扱われる危険性があります。それを「適法かつ適正な方法で取得」したのか、「本人が適切に関与」したのかを問題にされかねません。

 小泉純一郎首相は「基本原則」に違反しても罰則規定がないことをもって、「取材活動の制限にはならない」(四月二十五日の衆院本会議)といいます。

 しかし、疑惑政治家が、情報の取得方法や扱い方を問題にして、賠償請求することも予想されます。裁判になった場合、「基本原則」が裁判官の判断基準に使われる可能性も否定できません。

 日本新聞協会は意見書で「取材を受ける側の情報提供が萎縮したり、基本原則を口実に取材を拒否するケースが増加し、十分に報道できなくなることが予想される」といぜんから指摘しています。

雑誌、文学に罰則適用も

 法案は、「個人情報取扱事業者」にたいし、個人情報の適正な取得や第三者への提供の制限、開示、訂正、利用停止などの請求に応じる義務を定め、それに違反した場合には罰則(六カ月以下の懲役または三十万円以下の罰金など)も設けています。

 政府は、この「個人情報取扱事業者」からは報道機関などを除外していることをもって、「報道、表現の自由は侵害しない」としています。

 しかし、「報道機関」として明記されていない週刊誌などの雑誌社や出版社、文学者、写真家などは、報道機関にあたるのかどうか、明確な規定はなく、主務大臣の判断次第ということになります。そのうえ、報道機関であっても、個人情報を「報道目的以外」で取り扱ったと主務大臣が判断すれば、罰則適用の対象となりかねません。

 日本写真家協会は九日に発表した同法案への反対声明で、「撮影(取材)行為の前後から発表(印刷物への掲載・展示)に至るまで、政府が介入する道を開く」「プロだけでなく、アマチュア写真家にも規制が及ぶ」と警告しています。

 (つづく)

 (山岸嘉昭記者)

 


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