2002年5月10日(金)「しんぶん赤旗」
戦争反対の集会や報道も許されない――有事法制三法案=戦争国家法案を審議している衆院有事法制特別委員会で九日、福田康夫官房長官は、武力攻撃事態法案にもりこまれている「国民の自由と権利」制限の対象に、言論・集会の自由まで含まれるとの重大な見解を示しました。
戦争国家法案には、憲法が保障している「国民の自由と権利」に「制限が加えられる場合」があると明記しています。この問題で、民主党の桑原豊議員が「精神的自由は権利制限してはならないのではないか」として、戦争反対の集会や示威行動にどう対応するのかと質問。福田官房長官は、憲法第一三条をあげ、「公共の福祉に反しない限りという意味において、集会や報道の自由は権利として確保されている。あくまでも『公共の福祉』に反しない限りということだ」と答弁しました。
これは「公共の福祉」を理由に、集会や報道の自由などの制約もありうるとの考えを示したもの。これまで政府は「自由と権利」を制限する具体的内容は、今後整備する個別法(私権制限法)で定めるとしており、言論・集会の自由まで対象だとのべたのは初めてです。
森英樹名古屋大学教授(憲法学)の話 学界では「表現の自由」や「思想・良心の自由」といった精神的な自由は、ほかの権利と違い、内在的制約をこえて制限できるものではないと考えています。なぜなら、これらの権利は、民主社会を支える基本的権利だからです。
福田官房長官の発言は、この権利さえ「公共の福祉」の口実さえつけば侵害できるとする暴言です。「公共の福祉」の名で、国民の権利すべてに網をかけるように制限できるという議論は、学界でも否定され尽くしています。明治憲法では、法律さえつくれば、すべての国民(臣民)の権利が制限できました。まさに戦前の亡霊がよみがえってきたことを思わせます。
災害時に、国民が耐え忍ばなくてはならない事態が起きること一般を、学界で「権利の侵害だ」と問題にすることはあまりありません。これは国民の共通の利益のためにありうることだからです。
しかし今回は、政府のおこなう戦争での権利制限です。憲法は戦争を禁止しており、戦争のための国民の権利制限は、そもそも認められません。