2002年5月6日(月)「しんぶん赤旗」
言論・表現の自由を脅かすメディア規制の人権擁護法案と個人情報保護法案が、衆参両院で相次ぎ審議入りしました。
新聞、放送、出版などマスコミ業界と労組、ジャーナリストや作家、四野党がこぞって「表現の自由を侵害する恐れがある」と反対しているようにその内容は重大です。
両法案は、人権や個人情報の保護を名目にしながら、民主主義社会の支柱である言論・表現の自由に政府が介入する道を開こうとしているところに共通した危険性があります。
政府は「表現の自由に介入することはありえない」(森山法相)と弁明していますが、法案内容を見ればこれはまったく通用しません。
人権擁護法案は、報道を差別や虐待と同列において規制の対象としています。「過剰取材」や「プライバシー侵害」の判断を法務省の外局の人権委員会にゆだね、取材停止など勧告できることは、政府が報道・表現の自由に介入し、国民の知る権利を奪うことにつながります。
個人情報保護法案も、情報の「適正な方法で取得」「本人が適切に関与」などの基本原則を報道機関や一般国民にも適用するとしており、報道・取材も規制されます。
いま続発する汚職・腐敗事件でも徹底した取材や内部告発が力を発揮しましたが、疑惑政治家に取材源の開示など求められれば疑惑追及は大きな制約を受けます。
行き過ぎた取材や報道による人権侵害を防ぐことは重要なことですが、それは報道機関による自主的な取り組みを基本とすべきです。
個人の人権や情報の保護の面でも法案には重大な欠陥があります。
人権擁護といいながら、委員会が法務省の外局では公権力による人権侵害の救済は保障されません。国際人権規約委員会が九八年、日本に法務省から「独立した機関」の設置を求めた勧告にも反します。
国民の「差別的言動」も規制の対象ですが、何を差別とするのか判断は委員会まかせです。これでは国民の言論の自由、内心の自由まで行政が踏み込むことになりかねません。
労働分野の人権侵害を委員会から外し、厚生労働大臣の指揮下に置いたのも問題です。労働分野の人権救済は主要国では中心課題です。思想差別や女性差別が横行し「職場に憲法なし」といわれる日本こそ、独立した委員会による救済が必要です。
個人情報保護でも、自分の情報を自分がコントロールする「自己情報コントロール権」の規定がないことは本来の目的からみて不十分です。
なぜいま言論規制が前面に出てきたのか。その背景には自民党が九八年参院選の敗北や森内閣当時、中川秀直官房長官のスキャンダル報道などを契機に報道介入の検討に乗り出してきたことがあります。
政治家の汚職・疑惑やスキャンダル、官房機密費疑惑が続発している最中に言論規制を急ぐこと自体、その意図を疑わざるをえません。「これでは疑惑政治家や権力の保護法案だ」との批判が出るのも当然です。
見過ごせないのは、戦争を最優先する国家体制をつくる戦争国家法案(有事法制)と言論規制を一体で今国会に提案していることです。
戦争に国民を強制動員することこそ最大の人権と自由の侵害です。憲法の平和的・民主的原則をじゅうりんすることでは同根です。
こんな言論規制の法案は撤回して抜本見直しをするしかありません。