2002年5月3日(金)「しんぶん赤旗」
昨年十一月末に、教育基本法見直しと教育振興基本計画策定が中央教育審議会(文科相の諮問機関、鳥居泰彦会長)に諮問されてから、五カ月がたちました。審議のめどは一年とされています。議論はどうすすんでいるでしょうか。
審議は、教育基本法と教育振興基本計画(振興計画)を専門的に議論するために設けられた「基本問題部会」を中心にすすんでいます。これまで六回の部会が開かれ、教育基本法見直しより先に、振興計画が論議されています。しかし、ここまでの部会の論議は「専門的な調査審議」というにはほど遠く、各委員の持論の言いあいに終わっています。
六回目(四月十九日)の部会は象徴的でした。梶田叡一委員(京都ノートルダム女子大学長)が部会の議論にたいし「個人的経験をもとにした印象や意見の交換で終わってしまう。素人っぽい議論ではだめだ」と強いいらだちを表明。「議論の土台となる教育学の実証的な研究データを、数カ月かけて集めるべきだ」と主張しました。これを受けて鳥居会長は、事務局に検討を指示しました。
ところがその後、「ちょっと待ってほしい。この部会の役割は、各分科会が出した答申や報告を総合・調整することだ。分科会の論議を繰り返す必要はない」(市川昭午・国立教育政策研究所名誉所員)と、それをひっくり返す意見が。さらには高木剛委員(ゼンセン同盟会長)が「聞いていて分からなくなってきた。すでにある報告を組み立てるだけなのか。さかのぼって議論するのではないのか」と発言。委員の間で、基本的な議論の枠組みさえ一致していないことを、あらわにしました。
委員からも「毎回、いらだたしい思いだ。総花的だ」「議論が前に進まない。堂々巡りの議論ばかりでいいのか」との声がでています。討議では、「今後、子どもにとっての学校の重みを大きくするのか、小さくするのか」など基本的方向を問う意見も。しかし、それらの論点はつっこんで議論されていません。
そんななか、文科省は、同省のすすめる施策にそった振興計画の柱や重点施策の素案を着々と提出、肉付けしています。鳥居会長は「振興計画柱立て試案」(別項)を提出。小中あるいは中高一貫校の拡大など「六・三・三制の学校制度の柔軟化」を積極的に提起し、議論に押しこんでいます。
現在、論議は、振興計画に何を重点目標・施策として入れるかに入っています。部会所属の各委員に、重点だと考える施策を三つあげさせ、それを並べたものが、第六回部会で配布されました。その後の四月二十五日の総会で、部会所属以外の委員が、それぞれ必要だと思うことをつけ加えました。これが振興計画の具体策のたたき台になります。(別項)
しかし、何を優先課題とするかなどの基本的議論は詰められていません。各委員の持論に食い違いもあるなか、期限内に整合性のある振興計画になるのか、疑問です。
鳥居会長は、第五回部会(四月九日)で「下地の議論ばかりしている局面ではなくなった。一、二カ月で振興計画の見通しをつけたい」とのべました。ただ、四月二十五日の総会では、中間報告のめどを聞かれ、「なるべく、ずるずる先へ延ばしたい心境になっている」と心情もぽろり。
文科省は、振興計画の議論を教育基本法見直しにつなげる方針ですが、基本法そのものの本格的論議には、まだ入っていません。二十五日の総会では、一部の委員が「基本法の論議に入るべきだ」と主張しました。しかし、委員の多くが慎重で、当面、振興計画の論議をすすめます。
(抜粋)
I教育の現状と歴史的背景
1、教育の危機
学級崩壊/人格陶冶能力の低下/画一的思考の進学競争/科学・産業・国際関係での劣位
2、国家の発展段階と教育制度
明治初年 後進国への学制導入/戦前
産業立国時代の教育/戦中 国家主義時代の教育/戦後 民主化初期と高度成長期の教育
文化的らん熟・経済衰退・少子化・大競争時代の教育
3、現行教育制度の再検討
占領政策としての新制度/義務教育の意味の変化/国・公・私立の役割/国と地方の役割/6・3・3制の柔軟化/教育費用
II基本計画の基本理念と必要性
1、教育とは何か
2、教育に必要なもの
教育理念/教育制度/教育に携わる専門家/教育資機材/教育投資など
III教育振興基本計画でとりあげるべき事項
(抜粋)
学校の設置認可/6・3・3制の見直し、弾力的運用/多様な学校/基礎学力の向上/才能の伸長/国を愛する心を育てる、伝統・文化の尊重/教員の力量向上/学校、教員の評価/少人数学級/競争力ある大学育成/小学校からの英語教育/家庭教育の支援/奉仕活動の推進