2002年4月30日(火)「しんぶん赤旗」
光学機器メーカー、ニコン（本社・東京都千代田区）は、グループ全体で千人のリストラ計画を推進しています。四十五歳以上の従業員全員が対象者で、五十歳以上全員の退職強要まがいの個人面談が始まっています。会社側の違法性を追及するＪＭＩＵ（全日本金属情報機器労働組合）ニコン支部の励ましに、退職強要を拒否する従業員が増えています。（中村 隆典記者）
「今後あなたにやってもらう仕事はない」。ニコンの首都圏の工場に勤務する男性Ａさん（５５）は、個人面談で退職を迫られました。「どうしても辞めざるを得ないのでしょうか？」。上司はそれにはこたえず、「家族とよく話し合ってください」とだけいいました。三月中旬のことです。
相談相手もなく、Ａさんは一人悩みました。二週間ほどして、ふっと頭に浮かんだのが以前親しくしていた職場の同僚でした。「何かあったら連絡をください」。配転で離れ離れになる直前、そういって送り出してくれた人でした。
さっそく電話すると、「どんなことがあっても辞めたらだめ。はっきりノーといいなさい」とアドバイスされました。
「その励ましで勇気がでました。私の方から二回目の面談を申し入れ、『辞めません』とはっきりいいました。それっきり、会社は何もいってきません」とＡさん。
Ａさんは自分の体験を職場の同僚たちに伝え、「辞めるな」といい続けています。個人面談できっぱり断わる同僚が増えはじめ、「辞めません」といったきり五十分間も黙っていた従業員もいるといいます。
Ａさんを「辞めるな」と励ましたのは、リストラ反対の先頭に立つＪＭＩＵニコン支部の組合員です。Ａさんら大半の従業員が所属する組合がリストラに賛成するなか、組合の所属を超えてＪＭＩＵ支部に相談を寄せる従業員が増えています。
ニコンのリストラ計画は今回が初めて。内訳は、希望退職八百五十人（ニコン本体四百人、子会社四百五十人）、自然退職百五十人の計千人です。希望退職募集の期間は四月十五日から五月十日までです。
ニコン会長が全従業員に業績悪化を説いてまわり、「リストラやむなし」の雰囲気づくりに躍起です。主力の半導体製造装置ステッパーの生産減と赤字転落をその理由にしています。人員削減などで固定費を百億円以上削減し、Ｖ字型業績回復を図るというのがリストラ計画のねらいです。
あの手この手のリストラ促進策もろうしています。「今辞めなければ、あなたのいる職場はなくなる」など退職強要まがいの個人面談をくり返すだけでなく、早期退職優遇制度を五月末で廃止することを打ちだしました。「上積みされた退職金をもらえるのは今が最後のチャンス」と、誘導しています。
ＪＭＩＵ支部では、「早まって応じないように」と組合機関紙「るつぼ」で呼びかけ、一方で違法な個人面談をやめるよう会社側を追及しています。会社側に「辞めませんといえば、個人面談は一回で終わりにする」と約束させています。
ＪＭＩＵ支部の多田康弘委員長は「赤字転落といってもその前年度は史上最高の利益をあげています。人員削減しなければ経営困難に陥る状況にはまったくない。ニコンはこの二年間にタイ工場など海外で二千人増員しています。リストラはコスト削減をにらんだ国内からの物づくりの撤退です」と話します。
ニコンではリストラ推進中の三月に従業員の自殺が相次いで発生しています。ＪＭＩＵ支部では、労働者間の競争激化をあおる「業績主義賃金」の導入などが背景にあるとして、会社側にその責任を問うています。「今、職場に起きている事実にこそ、経営者は目を向けるべきだ」と。
リストラとのたたかいのなかで、これまで所属していた組合を脱退し、ＪＭＩＵニコン支部に加入した五十代の男性はこういっています。
「季節は春ですが、労働者にとって真冬の時代です。泣くのはいつも弱い立場の労働者です。ここで労働者が、組合が、団結してがんばらないと、本当の春はやってこないし、労働者も労働組合も存在価値がなくなってしまいます」
