2002年4月27日(土)「しんぶん赤旗」
「憲法の平和原則や基本的人権などの民主的な諸原則を真っ向から踏みにじって、アメリカが引き起こす戦争に国民を総動員する」――。二十六日の衆院本会議で日本共産党の石井郁子副委員長がおこなった代表質問は、「戦争国家法案」の重大性と危険な本質を浮き彫りにしました。
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法案は「武力攻撃事態」の定義を、「武力攻撃が発生した事態」だけでなく、「武力攻撃のおそれのある場合」「事態が緊迫し、武力攻撃が予測されるに至った事態」もあげています。
アメリカの介入戦争を「周辺事態」だとして自衛隊が参戦する事態と、法案の国民動員条項が発動される「武力攻撃が予測される事態」とは重なり合っている――。小泉首相は石井氏の指摘を認めました。
これは、日本が直接攻撃されなくても、アメリカがアジア太平洋地域で介入戦争を起こした「周辺事態」のときにも、同法を発動して日本国民が強制的に総動員されるということです。
石井氏は、ブッシュ米政権の対日政策責任者であるアーミテージ国務副長官らが、日本に集団的自衛権を認めることと、ガイドライン(日米軍事協力の指針)実施のための有事法制策定を公然と要求していることを指摘。「アメリカの要求に全面的にこたえようというのが法案提出の最大理由ではないか」と追及しました。
小泉首相は「危機管理体制は国家存立の基本として整備されているべきものだ」と答弁。
しかし、現に日本政府はインド洋に自衛隊艦船を出動させ、アメリカの戦争を支援しています。この路線をいっそう加速させようとするのが戦争国家法案だと、石井氏は批判しました。
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石井氏は、法案が、国民を戦争動員する仕組みについて三点にわたってただしました。
一つは、法案に国民全体が戦争遂行に「必要な協力をするよう努める」と明記し、協力の努力義務を課していることです。
二つ目は、自衛隊法にもとづいて医療・輸送・土木工事の従事者に業務従事命令が出せること。自衛隊が必要とするあらゆる物資に保管命令を出すこともできます。さらに、これを拒む国民に六月以下の懲役、三十万円以下の罰金を科すことまで盛りこまれました。
三つ目は、日本銀行や日本赤十字社、NHKや輸送、通信、電力、ガスの事業者などを「指定公共機関」に指定し、戦争協力の「責務」を課し、首相の統制下におくことです。
石井氏の追及に、小泉首相は、罰則付きで戦争協力を強いることに対し、「(処罰対象は)悪質な違反に限定」とのべ、戦争への非協力行為を「悪質」呼ばわりし、公然と“非国民”扱いしました。
さらに、石井氏が「指定公共機関」について、「民放や新聞社、医師会、看護婦会、医療機関も指定の対象になるのか」「輸送では陸・海・空のすべてに緊急輸送手段の確保が義務づけられるのか」と追及したのにたいし、首相は「具体的な指定は、総合的に判断する」と否定しませんでした。
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法案は、憲法の保障する国民の自由と権利について、「これに制限が加えられる」と明記しています。
小泉首相は、その根拠として憲法一三条の「公共の福祉」規定を読み上げましたが、この規定は基本的人権の「最大の尊重」をうたったもので、それを包括的に制約できることを定めたものではありません。憲法が「公共の福祉」との関係で制約の対象として明示しているのは財産権だけです(二九条)。
そもそも憲法は、前文で「政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意」し、九条で戦争放棄をうたっています。国民の自由と権利を抑圧し、人の命を奪う戦争は、憲法のいう「公共の福祉」と根本的に反します。
石井氏は、法案が定める人権の制限について何の歯止めもないと指摘し、集会・結社及び言論、出版、表現の自由、学問の自由、思想信条の自由をも制限するものではないかと追及。小泉首相は「その制限は必要最小限で、公正かつ適正な手続きのもとにおこなう」というだけで否定しませんでした。
法案は、今後二年以内で整備する「事態対処法制」として、「社会秩序の維持に関する措置」や「国民の生活の安定の措置」を明記しています。
石井氏が、「『治安維持』や『野外外出禁止令』なども入るのか」「物資統制や価格統制を想定しているとしか考えられない」と批判したのに対し、小泉首相は「社会秩序の維持や国民生活の安定に関して必要な措置を講じることは必要」と答弁。戒厳令を思わすような措置や、経済統制など国民生活のすべてを統制下に置く措置を否定しませんでした。
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「武力攻撃事態」にあると状況を認定し、自衛隊の軍事行動や国民動員を決める「対処基本方針」は閣議決定と同時に実施され、決定にあたって国会の関与はありません。
法案は「対処基本方針」の国会承認を「直ちに」求めるとしていますが、すでに方針は実行された後なので事後承認にならざるを得ません。首相は、現行の自衛隊法が防衛待機命令などを国会承認の対象にしていないのと比べて「国会の関与を強化した」といいますが、事後承認となることは否定しませんでした。
また法案は、「首相に全権を集中する体制」(石井氏)になっています。法の発動や「対処基本方針」の決定も首相なら、同方針を諮る安全保障会議の議長も首相。同方針に基づき国民を動員する「対策本部」本部長も首相。地方自治体などへの「指示権」「直接執行権」を持つのも首相です。
地方自治体などが政府の決定と違う判断ができるのかという問いに、小泉首相は「自治体の判断のもとに対処措置を実施できる」と答えましたが、国の決定が地方自治体などの判断に優先するのは明白です。