日本共産党

2002年4月24日(水)「しんぶん赤旗」

仏大統領選 第1回投票

不満を巧みに吸収 国民戦線

左翼・労働者票は分散


 【パリ22日山田俊英】「二回目投票でジョスパンに入れるつもりで緑の党のマメール候補に入れた。まさかルペンが二位になると思わなかったから」―二十一日、仏大統領選挙一回目投票で社会党のジョスパン首相が三位で敗れ、保守のシラク大統領と極右、国民戦線のルペン党首が決選投票に進むことになった翌日、左翼支持者の一人は肩を落としました。

“決選”見越して

 左翼支持者の多くが、シラク、ジョスパン両候補の決選投票になるだろうからその時、社会党のジョスパン候補に入れればいいと思ったようです。マスコミも両氏の決選を前提に報道しました。しかし十六人の候補者のうち左翼を名乗る候補は八人。左翼支持票は分散し、ジョスパン氏の得票率を前回九五年選挙(23・3%)から7ポイントも落とし、ルペン氏に抜かれる一因をつくりました。

 そこには左翼を支持しつつも、保守の大統領と共存し、社会党が主導する政権に満足しない人たちがいます。

 国会に議席を持たない左翼の三候補は「週三十五時間労働制で失業が減ったといっても、増えたのは臨時など不安定雇用だ」「国有企業の民営化はかえって進んだ」と社会党や仏共産党を批判し、前回ラギエ候補(労働者のたたかい)の5・3%から三人合計で10・5%へ倍増させました。三候補の「左翼政権も資本家の政府」という主張は単純すぎますが、左翼政権が取り組みつつ解決できていない問題をある程度突いています。その一つが雇用の問題です。

 左翼政権の五年間で失業者は九十万人減りました。三十五時間労働制で九八年から二十四万人の雇用が増え、解雇規制法も強化されました。それでもなお失業者は二百万人。低下していた失業率も景気の影響で昨年から微増し、大企業のリストラが相次いでいます。

危機感をあおり

 この問題で国民戦線のルペン候補は巧みに「フランス労働者の党」と売り込みました。失業を移民のせいにし、通貨統合で資本や労働者の移動が自由化されフランスの労働者が解雇されている、都市郊外で犯罪が増えていると主張しました。

 治安悪化の問題は昨年の地方選の争点の一つでもありました。ルペン候補は昨年九月の米国での同時多発テロも利用して、「治安悪化は外国移民のせいだ」と危機感をあおりました。シラク大統領が「犯罪増加は左翼政権の無策のため」と争点に押し出したことも有利に働きました。

 ルペン候補はまた、保守・左翼共存政権に対しては「伝統的エリート、財界の政権」と批判しました。

 結局、ルペン候補の得票は全百県中三十五県で一位。隣国と行き来の多い東部国境地帯や失業に悩む北部の工業地帯、移民の多い地中海岸です。

“まさか”の構図

 しかし移民追放、欧州統合反対で失業が解決するかといえば、展望はありません。本来なら社会党や仏共産党、さらに保守政党も解決策を示す必要があったのですが、有権者の心に響くものがなく、左翼与党の低迷だけでなく、棄権の増加、保守全体の得票減を招きました。

 こうした状況が普通の市民にとっても“まさか”というような保守対極右の争いという決選投票の構図をつくり出したと言えるでしょう。


欧州に警戒高まる極右の伸長

 【ロンドン22日田中靖宏】フランス大統領選挙第一回投票結果について二十二日のロンドン各紙は「極右の伸長でフランスに最大の選挙ショック」「人種差別主義の成功がフランスを揺さぶる」といった大見出しで衝撃を伝えました。

 「こんなことになると分かっていたら投票にいったんだけど」。ガーディアン紙はパリジャンのこんな声を紹介しながら、有権者のしらけ気分が最大の要因だと報道しています。

 五年も続いた保革共存政権で、政治が緊張を欠いた。欧州連合(EU)の拡大で大統領の影が薄くなった、などの指摘もあります。

 ただ極右政党の伸長はフランスだけでなく、全欧州的な現象です。しかも近年は各国で実際に政権入りし、中道右派政権を支えるようになっています。

 ナチスを賛美するハイダー党首を頂いたオーストリア自由党が政権参加したのは二年前です。欧州の価値観の否定だと総批判を浴びたものの、イタリアでは昨年、ファシスト後継政党とされる国民同盟がベルルスコーニ政権入りしました。この流れはデンマークの人民党、ポルトガルの民衆党と続き、来月に予定されるオランダの総選挙でも極右の進出が見込まれています。

 共通の背景として指摘されているのが、移民の流入にたいする底辺労働者層の反発です。それにEUの拡大で民族国家のアイデンティティーが次第に薄れる。民主主義が形がい化していく。そんな不安も言われています。

 一九九〇年代に相次いで誕生した社会民主主義政権。失業解消や安定した雇用の確保など公約を果たせないことへの失望も大きい。その流れを象徴するフランスのルペン・ショック。欧州各国が直面する政治の落とし穴へ大きな警鐘となっています。

 


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