2002年4月23日(火)「しんぶん赤旗」
電機を中心に広がる企業側からの賃下げや労働条件引き下げ提案。関西の私鉄、南海電鉄(本社・大阪市)では、経営危機を理由にした賃金10%カットと人員削減提案に対して労働者側が不当性を追及し、3%のカットに押し返しました。日本共産党南海電鉄委員会の職場新聞「くろしお」が会社の「赤字」宣伝をはね返す力になりました。(名越正治記者)
「ほんまか。むちゃくちゃや」。春闘がスタートした一月中旬、「くろしお」の内容に労働者は目をむきました。会社が昨年十一月、南海電鉄労働組合(村橋勝委員長、私鉄総連)に基本給10%カットや臨時給(一時金)一カ月削減、五百五十六人の削減を柱にした「合理化」案を提案していたことを明るみに出したものです。事実を知らされていなかった職場では「くろしお」の話題で持ちきりになりました。
二十代の労働者は「子どもができるのに、将来の不安でいっぱい。マイホームどころではなくなってきた」。五十代の職制も「赤字は社員にいっさい責任はない。すべて経営者の責任や。短期的に賃金カットで経費を削減しても士気低下を招き、マイナス面の方が大きい」と怒ります。
「くろしお」が発行された二日後、会社は「合理化」計画を発表しました。昨年秋の中間決算で十五億円としていた赤字額を約四十倍もの五百九十六億円とし、「資金面で危機的状況」にあると南海労組に“協力”を申し入れました。会社の「合理化」計画をマスコミがいっせいに報道し、家族を含め労働者の間に不安が広がりました。
「くろしお」は、会社の「赤字」宣伝にたいし二号にわたって特集し、ごまかしを突きました。営業利益は、前年同期比で十九億六千百万円増加しており、五百九十六億円という赤字の中身は退職金の一括積み立てや子会社の整理・売却などのコスト、リストラ費用を含んだもので、これまでの経営の失敗による費用であると主張。労働者に犠牲を強いる「合理化」を提案しなくても、ため込んだ内部留保で処理できると提起しました。
本当に経営が苦しいというのなら、今後九百八十九億円もの巨費を投じようとしている「未来都市なにわ新都」計画を縮小・中止し、組合にも組合員にも納得できる将来ビジョンを明らかにすべきだと批判しました。
労働者は「おかしいと思うてた。『赤字』宣伝は、際限なく賃下げをしたいという思惑がありありや」といいます。
労働者の怒りを背景に南海労組が動きます。「私鉄新聞」南海版二月二十日付で「会社提案に対する組合の考え方」を発表し、「バブル時代、無計画かつ膨大な事業投資の失敗で借入金をふくらませ、合理化提案時にはあたかも『企業存亡の危機』であるかのごとく吹聴し、組合員を動揺させてきた」と批判。交渉の重点として(1)経営危機の原因追及(2)経営者としての社会的責任を追及する―をあげました。
二月末の労組合同分会委員会。会場前で配った「くろしお」を大半の組合役員が受け取り、熱心に読む姿も。席上、本部の書記長は「五百九十六億円の赤字をどこから持ってくるか。共産党のビラ(「くろしお」)を見てください。ここに書いてある(内部留保の)資本準備金と利益準備金、剰余金からとりくずす」と説明。党委員会の主張と同じように「赤字」宣伝に反論しました。
また、組合情報紙は、三月一日の労資でつくる経営協議会で、組合執行部が「会社の体質改善、明確な将来ビジョンについて話し合い、不安視している難波再開発について『真の総括』を求め、あらゆる角度から追及を行った」と紹介しました。労働者の間で「組合がなんば再開発を不安視したのは初めてや」と話題になりました。
労資合意を受けて会社は四月四日、新三カ年経営計画を発表しました。
管理職以外の労働者は賃金のカット率を3%に抑えざるをえませんでした。一方で、駅員や運転士、車掌を3%削減する人減らしを本格化しています。「余剰員」の名目で一時帰休や沿線の草むしり、部課長がインターネットが使える喫茶店員をやらされるなどの攻撃も強まっています。
ある管理職は「賃下げを押し返したのは共産党のおかげや。リストラは続くけど、お客さんのサービスや安全を守るための意見はしつこいほど出してくれ」と語ります。