2002年4月22日(月)「しんぶん赤旗」
二十一日放送のNHK「日曜討論」で、日本共産党の筆坂秀世政策委員長は、小泉内閣が提出した「戦争国家法案」(有事三法案)をめぐり、各党の政策責任者と討論しました。他党の出席者は、自民党・久間章生政調会長代理、公明党・北側一雄政調会長、保守党・井上喜一政調会長、民主党・岡田克也政調会長、自由党・藤井裕久政調会長、社民党・大脇雅子政審会長代行。司会は影山日出夫NHK解説委員。
筆坂氏は冒頭、有事三法案の問題点についてのべました。
筆坂 よく「備えあれば憂いなし」ということが言われます。しかし、こと軍隊となりますと「攻撃は最大の防御」という言葉があるように、古今東西、有事法制がどういう役割を果たしてきたか。戦後の例をみても、フランスでは有事法制が発動されたのは植民地の独立運動を制圧するため。イギリスでは戦時の部分は発動されたことはないですね、侵略されたことがないですから。結局、国内弾圧に使われる。つまり、人権抑圧と侵略と干渉の道具になってきた。
日本でも戦前は「国家総動員法」がそうでしょう。中国への全面侵略とはまさに一体のもので、国民の生命・財産を守るというのが大義名分だったわけです。
今度の法案は、国民の自由と権利を包括的に制限するということが入っています。罰則も科す、自治体や民間企業も動員するというわけですから、まさに戦争国家体制づくりの法案です。われわれとしては断固阻止したいと考えています。
討論では、司会者に「なぜこの法制が必要なのか」と問われ、久間氏は「自衛隊法ができたときに完備していなければならなかった。今、米ソの対立がなくなって、にわかに日本が武力攻撃がされることはないのかもしれないが、平時においてそういう法制は完備しておこうという議論ができる雰囲気になってきた」とのべました。岡田氏は「有事についての法制が必要であると党として確認している」としながら、「(法案には)かなり不備がある。問題点は国会で議論し、その結果をみて賛否を決める」と発言。
北側氏は「万一に備えた法整備は国の大事な責任だ」とのべました。藤井氏は対案を出すことを改めて表明しました。
司会者から「政府の議論の進め方をどうみるか」と問われた筆坂氏はこう発言しました。
筆坂 この法案が想定しているのは、要するに「周辺事態」です。これも(武力攻撃事態と)重なるということを中谷防衛庁長官がはっきり言いました。(自民党の)山崎拓幹事長はもっと率直に言っています。日米安保条約の六条、いわゆる「極東有事」といわれるものです。「日本有事」とまったく別です。「周辺事態法」がこれに対応するものだと言っています、いままでの政府説明と違いますが。つまり、アジアでアメリカが介入戦争をやる、それが日本に波及してくる恐れがある、それは「武力攻撃事態」だというので、この法律が動き出して、国民が動員されるというしかけをつくろうというところに一番の問題がある。
よく「超法規的」というけれど、人権については「永久に侵すことのできない権利」と憲法に明記してある。それを制限しちゃうわけでしょう。「超法規はいけない」ということに名を借りて、超憲法的な法律をつくろうとしている。
テーマは、有事法案が国民の人権を制限し、義務を課す問題点に移りました。岡田氏は「権利乱用の可能性は政治としては考えなければならない」と発言。北側氏は「必要最小限で制約されることはやむを得ない」とのべました。筆坂氏は、こうのべました。
筆坂 仮に本当に日本に武力攻撃があったときには、国民は罰則なんか科さなくても、自らの命を守る、兄弟を守る、財産を守るために立ちあがる。当たり前の話です。(今回の有事法案が)なぜ、こんな罰則かけてまでこんなことをやらなきゃいけないかといえば、想定されている戦争が、道理のない戦争、つまりアメリカへの協力という側面があるからですよ。
討論では、武力攻撃事態法案に書き込まれた今後二年以内に整備する法制に「国民の生命、身体及び財産を保護するため」の法制があげられていることにかかわって、議論が交されました。
久間氏は「たとえばたくさん(民間の)船が並んでいるところに、有事の場合に接岸させようとすると、それを排除して接岸させます。(だが、新法を整備しないと)一方的に(民間船を)どけろとはいえない」とのべ、国民の権利制限にかかわるものであることを明らかにしました。筆坂氏は次のように批判しました。
筆坂 この法律の全体の体系は、憲法で戦争放棄した日本が、国民が戦争に協力しなければ犯罪者にされてしまうというところにあります。(今後、整備する法制について)内閣官房から説明を受けました。たとえば、その中に「社会秩序の維持に関する措置」というのがありますね。この中に夜間外出禁止令が入るのかときくと、“当然、入ります”と。「国民の生活の安定に関する措置」は何かといえば、たとえば価格統制とか物資の統制とかの経済統制ですよね。文字通り戦時体制をつくって外出禁止令もやる、物資や物価の統制もやる、これがその中身ですよ。自衛隊=軍隊が街中にでてくるということです。
討論は、「有事」とは何か、「武力攻撃事態」と「周辺事態」の関係などについて議論が移り、筆坂氏はこうのべました。
筆坂 文字通り二つ並べると、よくわかります。「周辺事態」は「そのまま放置すれば我が国に対する直接の武力攻撃に至るおそれのある事態」、武力攻撃事態というのは「武力攻撃が発生した、あるいはそのおそれのある、あるいは予測される事態」ですから、定義としてはほとんどいっしょですよ。
山崎さんが、最近の記者会見で、周辺事態法は安保条約六条の「極東有事」への対応なんだといっている。そのときに周辺事態法が動くと。その周辺事態法と武力攻撃事態法はオーバーラップするわけです。そのときに当然、日本国内でも「武力攻撃事態」に備えた有事法制が動き出していくことになる。
「おそれ」と「予測」というのはまったく恣意(しい)的な判断でしょう。なにが客観的に見て「おそれ」とか「予測」というのか、その判断基準なんか何もないわけです。首相が、「おそれ」がある、あるいは「予測される」といえば、「武力攻撃事態」になってしまう。
その恣意的判断で有事法制が動いちゃうというところに、この法案の非常に恐ろしいところがあると思います。
久間氏は「周辺事態と武力攻撃事態とがオーバーラップするケースもある」と認め、北側氏も「周辺事態が、武力攻撃事態というものと並存する場合は想定される」とのべました。
今後の国会論戦、日程に議論が移り、久間氏は「こういう全体の大枠づくりの法律くらいは早く仕上げてもらいたい」と主張。筆坂氏はこう反論しました。
筆坂 戦後、自衛隊ができて四十八年。その間、有事法制をつくらなくても、なんの不都合もなかったわけでしょう。当時は、政府は公式には認めないけれども、仮想敵はソ連だといっていたわけです。そのソ連が崩壊したというときに、なぜ時代錯誤のこういうものをつくるのか。
今の国際情勢をみても、アジアで、一番の軍事費大国は日本ですよ。ASEAN(東南アジア諸国連合)十カ国合わせたより日本は大きな軍事力を持っているんですよ。
こんな有事法制をつくるより、アジアとの平和と友好の道を進んでいく(ことだ大事だ)。憲法九条を「備え」にしようと戦後の出発点で誓ったわけですから。