2002年4月17日(水)「しんぶん赤旗」
国民に戦争協力を義務づける一方、「自由と権利」は歯止めなく制限し、首相には戦争遂行の全権限を集中する――十六日に自民、公明、保守の与党三党が了承、小泉内閣が閣議決定した「戦争国家法案」(有事三法案)は、「戦争の論理」が支配する日本を到来させる法案です。憲法のもとであってはならない有事法案を国民にいっさいの説明もないまま、政府が決定し、国会に持ち出すこと自体、歴史に残る罪です。(藤田健記者)
「戦争国家法案」は、日本への「武力攻撃」を前提に武力行使することを明記した法案です。武力攻撃の「おそれのある場合」や「予測に至った事態」まで、首相の判断一つで「有事」すなわち戦時の宣言がされ、戦時体制へ移行していくことを想定しています。
そのうえ、首相に戦争方針を実行する権限(対策本部長)や、自治体や民間にも指示や強制執行ができる権限まで与える仕組みです。
まさに、憲法が否定した戦争遂行のための法案です。
国の仕組みまで戦争遂行のために変えてしまうこの究極の違憲立法を、小泉内閣はわずか数カ月の密室作業で策定。小泉首相自身が慎重に検討した形跡もありません。自民、公明、保守の与党三党も一月二十二日の第一回与党緊急事態法制協議会以来、わずか数回の会合をもっただけで了承しました。
この間、野党の国会議員が法案の概要や要綱案を要求しても、政府は「与党内で協議中」を理由に提出することさえ、いっさい拒否してきました。大阪府の太田房江知事も「国が地方公共団体や住民にしっかり説明責任を果たしているのか疑問。(自治体には)全国知事会を通じて要綱がきただけ」「住民生活や経済に大きな影響を与える可能性があるものであり、国民的議論が必要」と指摘しました。国民への直接の説明はもちろんなく、わずかに密室協議のあと、マスコミ相手に簡単な説明がおこなわれただけでした。
昨年秋のテロ対策特別措置法のスピード成立に味をしめ、「備えあれば憂いなし」などというごまかしのスローガンだけで一気に押し通そうとしているのです。
戦争国家か、平和国家か――国づくりの根本にかかわる重大法案を、与党の論理だけで一気呵成(いっきかせい)に押し通すことなど決して許されません。
「それは被害じゃない。全体の利益を守るためにはやむをえないことだ。国家全体の利益だ。一部の国民の利益を守るということではない」
二月五日、第二回の与党緊急事態法制協議会後の説明で、自民党の山崎拓幹事長は、「有事」の際の国民の被害補償について問われ、こう言い放ちました。
戦争がいちばん大事、そのためには国民の自由や権利が制限されてもやむを得ないという思想が明確に現れています。
「戦争国家法案」では、医療・輸送・土木・建築などの業者や従業員が強制動員されるだけではありません。国民の戦争協力が「努力義務」と明記され、より強制力が働くことになりました。非協力者は、戦前のように「非国民」扱いされかねません。
これまで国民にとって空気のような存在だった「自由と権利」も「制限される場合」があることが明記されます。「二年以内」には、国民統制法案というべき民間防衛のための新法がつくられるというレールまで敷かれます。
憲法が「永久の権利」と保障する国民の「自由と権利」を、与党三党が思いのままに制限するのは言語道断です。
「警報を出すときはNHKだけでなく、民放でもだ。国民に早く知らせるためだ。Aという放送局はやっていて、Bという放送局にはないということにはならない」
与党安全保障プロジェクトチームの久間章生座長(自民党)は、九日のチーム会合後こうのべて、戦争協力が「責務」となる「指定公共機関」を拡大する意向を示しました。
指定公共機関は災害対策基本法で約六十機関。日本銀行やNHK、JR、NTT、電力、ガスなど社会生活の全分野にわたります。「戦争国家法案」では、それをさらに拡大し、社会生活の全分野で国民を動員する仕組みをつくろうとしているのです。
さらに今後、「二年以内」には電波規制や航空路統制といった新法制定も狙っています。
政府・与党は、有事三法の発動対象として「周辺事態もその一つ」(中谷元・防衛庁長官)と認めるなど、アメリカの戦争に参加することで戦時体制に移行する意図を隠そうともしていません。
「なぜ、おとなは戦争に反対しなかったのか」。太平洋戦争後にそう問いかけられたことが繰り返されないよう、いま立ちあがるときです。