2002年4月12日(金)「しんぶん赤旗」
会社が倒産したさい、未払い賃金や退職金を労働者が受け取れないケースが多発しています。日本共産党の井上哲士参院議員が質問するなど国会でも問題になり、法務省は労働債権(未払い賃金や退職金)の保護の拡充にむけて検討をはじめています。
企業が倒産すると、企業に残った資産を債権者が分配します。現行法(民法、商法など)では、金融機関が設定した土地などの抵当権、未収の税金である租税債権が労働債権よりも優先されています。このため、未払い賃金などがほとんど支払われないケースが増えています。
三月二十日、参院法務委員会で井上議員が紹介した京都の従業員二十人ほどの運送会社は、大手スーパー・マイカルの倒産のあおりで破産に追い込まれました。労働債権は約千二百三十万円ありましたが、会社に残った資産は三百七十万円しかなく、租税債権が優先され、労働債権には百六十万円しか回りませんでした。
やはり井上議員が紹介した例で、昨年倒産した工作機械メーカー・池貝の場合、二十一億円の退職金が未払いで、主な資産である工場には金融機関の抵当権が設定され、退職金が支払われない事態となっていました。
全日本金属情報機器労働組合(JMIU)池貝支部と池貝争議支援共闘会議のたたかいにより、三月二十九日、会社側と和解が成立。金融機関の一部債権放棄をかちとり、実質的に労働債権を確保しました。
井上議員が国会で質問し、政府も認めたように、国際的には労働債権の保護が確立されてきています。
国際労働機関(ILO)百七十三号条約は、使用者の支払い不能の場合、労働者債権は優先的に保護され、租税債権より優先順位が高くされています。
ところが、日本政府はいまだにこの百七十三号条約を批准していません。
フランスでは、労働債権の一部(六カ月分の未払い賃金)については、抵当権などより優先させ、最優先することになっています。
前出の池貝の民事再生にかかわっている監督委員からも、工場の資産の売却代金から金融機関だけが債権の全額を回収するのは、(労働債権との関係で)「衡平・公正を欠く」との指摘が出されていました。
全労連(全国労働組合総連合)は政府にたいし労働債権の保護強化を要請しています。とくに労働債権の優先順位を引き上げることをもとめ、(1)労働債権の全額を租税債権など公租公課より優先すること、(2)経営状態を知りうる立場にある金融機関の貸し手責任も考慮し、一定限度の労働債権を抵当権より優先させること―を主張しています。
法務相の諮問機関である法制審議会は、破産法の全面的な見直し作業をおこなっています。三月二十日の井上議員の質問にたいし、森山真弓法務大臣は、「現在の厳しい経済情勢にかんがみると、労働債権の保護のあり方というのは非常に重要な課題であり、見直しが必要であるということは、委員ご指摘のとおり」と答弁しています。
法制審議会は今年秋までに改正試案をまとめ、政府は来年通常国会にも改正案を提出する見通しです。
労働者を救済するため、労働福祉事業団による未払賃金立替払制度があります。
立替払いの対象になるのは、労働者が退職した日の六カ月前からの定期賃金と退職手当の未払賃金です(一時金は含まれません)。
対象賃金の限度額が年齢別に決まっており、三十歳未満は百十万円、三十歳以上四十五歳未満が二百二十万円、四十五歳以上三百七十万円となっています。この限度内の未払い賃金の八割が、労働者に立替払いされます。