日本共産党

2002年3月1日(金)「しんぶん赤旗」

五輪

企業に振り回される日本選手
際立つ国の貧困な支援


 銀1、銅1。日本選手団がもくろんだメダル10個を、大きく下回ったソルトレーク五輪。竹田恒和団長(日本オリンピック委員会=JOC=会長)は「選手は全力を尽くした」と胸を張ります。が、選手が日本で置かれていた環境や、国の支援体制をみると、とても全力を尽くせるものではありませんでした。

 「(競技は)続けたい。でも、どういう形があるのか…」。スピードスケート千メートル15位、千五百メートルでは34位に終わった今井裕介が、レース後つぶやきます。所属企業の自動車部品会社メッツのスケート部が、廃止されるからです。「スケートを続けるなら、会社を辞めてもらうしかない」(メッツ)。4月からの所属先は決まっていません。

 同じ企業にはショートトラックの西谷岳文も所属しています。西谷は前回長野で金メダル。まだ大学1年生で、将来を嘱望されていました。ところが卒業後、就職先が見つからず、昨年7月にやっと入ったばかり。大学時代の恩師がスポンサーを探しているものの、来季どうなるかは分からない状況です。

 ソルトレーク五輪を通じて見えたのは、冬季種目にたいする日本の競技環境の貧困さです。多くの選手が、長期的な視野で競技に打ち込めていません。絶えず所属企業の業績に左右されるからです。さらに、つねに目に見える結果を求められ、ときには広告塔の役割も担わされます。

 ジャンプの葛西紀明は、長野後に地崎工業、マイカルと2度の廃部にみまわれました。雪印の相次ぐ不祥事で、弁明に走らされたのは原田雅彦。両選手とも、本調子で五輪を迎えることができませんでした。競技に集中できる環境になかったのでしょう。

 日本スケルトンの第一人者でありながら、失職を繰り返した越和宏。ホクト産業から援助を受けるのは99年から。五輪種目への復帰が決まったからです。それまでは失業保険で家族を養っていた時期もありました。

 競技以外の問題に悩まされる五輪選手たち。困難に打ち勝つ姿だ、として美談にしてはなりません。競技場で素晴らしい成績をあげることこそ、選手の本望のはず。JOCは、メダルの数よりも、選手の置かれている貧しい競技環境にこそ目を注ぐべきです。(松下昭司記者)


有給スタッフ

スキーだけでフランス82人

 選手強化に向けられる国庫からの補助金やスポーツ振興基金からの助成金は、減る傾向にありました。

 JOCにたいする国庫補助金からの今年度の選手強化事業費は約11億2千万円でした。長野五輪のあった97年度から約2億1千万円の減。JOCが独立団体となった91年度以降、最低水準です。

 スポーツ振興基金(政府からの出資をもとに設立され、民間からの寄付を合わせた)からは、選手の強化事業に今年度約5億6千万円の助成がありましたが、最高時の91年度に比べると約37%も少なくなっています。

 選手強化のための専用施設は、ほかの国に比べると貧弱さが際立っています。

 各国が選手の総合的な強化拠点となるナショナルトレーニングセンターを60年代から80年代にかけて建設したのにたいして、日本はようやく昨年秋に医科学研究の拠点施設ができたばかり。現場から「常勤の研究スタッフを増やしてほしい」と不満が出ており、トレーニング施設を建設するめどは立っていません。

 国からの補助を受けた有給の強化スタッフは、夏冬の全競技団体合わせて38人でした。今大会で金メダルを4個に倍増させ、メダル総数でも躍進したフランスでは、国からの給与でまかなうコーチの数がスキー競技だけでも82人(98年、笹川スポーツ財団調べ)いました。(勝又秀人記者)


くじ頼みの政策転換必要

 スポーツジャーナリスト・谷口源太郎さん いまの国の政策のままでは、日本のスポーツがますますだめになっていくと危ぐしています。

 昨年に始まった「サッカーくじ」は売り上げが低迷し、各スポーツ団体は限られたパイから分取り合戦をしなければなりません。

 国は一昨年に「スポーツ振興基本計画」を発表して、競技団体にメダル獲得率を倍増させよと号令をかけました。その財政的な根拠が「サッカーくじ」の乏しい収益なのですから、なにをかいわんやです。

 そもそもスポーツ振興の財源を不安定なギャンブル収益に頼ろうという姿勢自体が、スポーツの価値を軽んじているあらわれです。

 スポーツ活動が人間にとって基本的な権利であると位置づけて、具体的な振興策を考えるのであれば、ギャンブルなんかに依存せず、国や自治体の予算にきちんと組み入れるべきです。

 今回の日本選手の不振の背景を総合的に検証することをふくめ、スポーツ政策のあり方を根本から見直すことが求められています。

 


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