日本共産党

2002年2月10日(日)「しんぶん赤旗」

どうなってるの?――…

大学の再編統合


 国立大学の間で再編統合の動きがすすんでいます。小泉内閣は四日の施政方針演説でも改めて「大学の構造改革を目指します」と強調しています。大学入試シーズンとなり、国民のなかに「いったい、大学はどうなるの?」の声が広がっています。

国立大がなくなる県も?

「国際競争力」強化のためとして大幅に削減

 現在、統合に合意した国立大は二十四大学にのぼり、十二大学が協議中です。県域をこえて埼玉大学と群馬大学が協議を始めるなど、国立大学がなくなる県もでてきそうな動きになっています。東京や近畿の公立大学の自治体でも、再編が具体化しています。

 これらは、文部科学省が、昨年六月に発表した「大学の構造改革の方針」(遠山プラン)にもとづくものです。同方針では、「国際競争力」のある大学づくりのために現在百一ある国立大学を「大幅に削減」し、そのうち四十八ある教員養成系の大学・学部も半分以上減らすとしています。

 昨年十一月の国立大学長懇談会では、地方大学の学長から「地域の意向をふまえるべきだ」「県域をこえた統合は、学生と教職員に大きな負担になる」との意見が相次ぎました。国民の間でも「国立大学がなくなれば、地域経済の基盤が崩れる」「多くの高校生が県内の大学に進学するなか、その進学機会が奪われる」などの声が上がっています。

 『学問の自由と大学の自治』を最近あらわした伊ケ崎暁生さんは、戦後に確立した「一県に一国立大学」の方針は、教育を受ける権利と教育の機会均等の原則にもとづいたもので、国民の進学率を高めてきたと指摘。「いまの改革は、戦前の軍国主義と特権的な大学制度を反省して生まれた戦後の理念と原則をくつがえすものだ」と批判します。


すすめられる大学の統合

 【統合決定】筑波大と図書館情報大▽山梨大と山梨医大

 【来年10月までの統合合意】東京商船大と東京水産大▽神戸大と神戸商船大▽九州大と九州芸術工科大▽福井大と福井医大▽島根大と島根医大▽香川大と香川医大▽高知大と高知医大▽佐賀大と佐賀医大▽大分大と大分医大▽宮崎大と宮崎医大

 【統合で協議・検討】

 弘前大、秋田大、岩手大▽群馬大と埼玉大▽岐阜大と市立岐阜薬科大▽静岡大と浜松医大▽滋賀大と滋賀医大など

(文科省発表、1月24日まで)


“トップ30”を世界最高水準に?

「遠山プラン」で大学を序列化

 「遠山プラン」は、国立大学を減らす一方で、競争原理を導入して国公私立の全大学からトップ三十だけを世界水準に育成するとしています。そして、国は、「競争的環境を一層醸成して」国公私を通じた大学間の競い合いを活発にさせようとしています。予算面でも差をつけ、三十大学へは来年度予算で百八十二億円を重点配分するとしています。

 その目標とするところは何か――。「遠山プラン」と同時に発表した「大学を起点とする日本経済活性化のための構造改革プラン」では、「企業から大学への委託研究」や「産学連携」を強調。“産業に役立つ大学づくり”をあからさまにしています。

図表

 大学関係者からは「トップ三十大学を頭に、大学の序列化がすすむ。受験戦争も激化する。日本の高等教育にかける予算は、低すぎる(表参照)。改革というなら、大学予算の抜本的な増額をするべきだ」(三輪定宣・千葉大教授、本紙インタビュー)との声があがっています。

 ノーベル化学賞を受賞した野依良治名大教授も、「大学の機能は、教育と学術研究。大学が全面的に産業界に貢献すべきだという議論があるが、まったく違う」(「朝日」二〇〇一年十月十七日付)とのべています。

学問の自由はどうなる?

大学の運営を「トップダウン」方式に

 「遠山プラン」は、国立大学・研究機関を国の機関から個々に法人格をもつ独立行政法人化し、新しい「国立大学法人」にするとしています。文部科学省の実施にむけた中間報告によると、各大学は、国家政策を「踏まえて」目標や計画案をまとめますが、それを「認可」するのは文部科学大臣です。目標の達成度や教育研究を、文科省に設置した有識者からなる大学評価委員会(仮称)が評価し、評価結果を各大学の予算に反映させるとしています。また、大学の運営も学長・学部長を頂点とした「トップダウン(上意下達)」方式にするとしています。こうした制度は、憲法の定める「学問の自由」、大学の自治を根底から脅かすものです。教職員の公務員としての身分をなくす方向も検討されています。

 毛利秀雄・岡崎国立共同研究機構長は、昨年、独立行政法人化された国の試験研究機関の実態にもふれて、「『とにかく役に立つことを』と目標を与え、そこへ研究を集中するやり方は疑問です。…主務大臣が中期目標を立て、それにそった研究とその到達度が評価されて、研究資金が配分されるという制度は、学問研究にはなじまない。科学は、自由で、自律性が認められた環境でこそ発展します」(本紙インタビュー)と指摘しています。

民間的経営導入で学費は?

「世界一高い学費」がさらに高く

 新しい「国立大学法人」になると、民間的経営手法の導入が義務づけられます。学費は各大学の「方針・工夫」により具体的な額を設定できるようになり、大学間・学部間の学費格差の導入や大幅な学費値上げは必至です。そうなれば、公立、私立大学の値上げも誘発するでしょう。

 ただでさえ世界一高いといわれている日本の学費。今年入学する国立大学生の学費は、四十九万六千八百円。来年度はさらに二万四千円値上げです。

 全学連が今年の大学入試センター試験の受験生に実施したアンケートでは、受験生の九割以上が「学費は高い」「どちらかといえば高い」と回答しています。

 全学連の小林昌弘委員長は「受験生は、学びたい学問があるという強い思いをもっている。大学を減らしたり、学費値上げや奨学金制度の縮小・廃止は、憲法にうたわれた等しく教育を受ける権利に逆行するものではないか」といいます。


「遠山プラン」とは

 昨年六月に、遠山敦子文科大臣が発表した「大学の構造改革の方針」です。その内容は―。

(1)国立大学の再編・統合を大胆に進める、大学数の大幅な削減を目指す。→スクラップ・アンド・ビルドで大学を活性化させる

(2)国立大学に民間的発想の経営手法を導入する。大学役員や経営組織に学外の専門家を登用など→新しい「国立大学法人」に早期移行

(3)大学に競争原理を導入する。評価結果に応じて資金を重点配分、国公私を通じた競争的資金を拡充→国公私「トップ30」を世界最高水準に育成する

「開かれた大学」へ今、必要なのは?

群馬大学教職員組合委員長 黒須 俊夫教授

 先月、群馬大学と埼玉大学が統合に向けて協議しているとの新聞報道がなされた。北関東の4大学(群馬、埼玉、茨城、宇都宮)の話し合いは周知されていたが、二大学が統合を前提にした協議をしていることは、ほとんどの大学人にとって寝耳に水だった。

 大学改革は、本来、国民の意見を聞きながら全大学人によって自主的に進められるべきものだ。しかし、今回のように評議会での内容が知らされずにいたという経緯は、大学の自治と民主的な合意形成という点から重大な問題をはらんでいる。群馬大学は、地域に密着した地方大学として、地元県民に守られながら発展してきた。それゆえ大学人の意思決定を重視しつつ、開かれた大学として県民にすべての情報を公開し、意見を反映していかなくてはならない。今回のようなトップダウン的手法は、どこまでが決定されたものなのかわからず、開かれた大学のやり方とはいえない。混乱と不安をまねくだけのものだろう。

 当局は、これまでおこなわれた学長懇談会での内容を含め、正式に経緯を明らかにすること、また統合することによるメリット・デメリットについて説明する必要がある。われわれは、それらを冷静に聞いた上で、国民に開かれた“大学改革”とは何か、よく議論をしながら深め、民主的な合意形成をおこなっていかなくてはならないと思う。

 


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