2002年1月29日(火)「しんぶん赤旗」
日本共産党の志位和夫委員長が二十八日に発表した「『不審船』問題についての日本共産党の見解と提案」の全文は次の通りです。
昨年十二月二十一日から二十二日にかけて、東シナ海の日本の排他的経済水域で、いわゆる「不審船」が発見され、海上保安庁が追跡し、武器を使用するなかで「不審船」が沈没するという事件がおこった。
わが国領海やその周辺水域で、犯罪行為を行っているのではないかと疑われる国籍不明の船舶、いわゆる「不審船」が出没していることにたいし、国民から不安の声があがっている。
同時に、今回の事件にたいする海上保安庁の対応にたいし、内外から批判の声があがっている。とくに、中国や韓国などから、すべての船舶に「航行の自由」が保障された水域で、日本が戦後はじめて武器を使用したことにたいし、懸念と警戒が表明されている。
今回、海上保安庁がとった行動が適切であったのかどうか、今後、どういう対応をすべきなのかについて、冷静な吟味、検討が必要となっている。とくに、「不審船」の発見水域が日本の領海ではなく、排他的経済水域であり、沈没した場所が中国の排他的経済水域であったという、今回の事件の経過に照らせば、なによりも国際法上のルールにしたがって検証し、対応を検討する必要がある。
いまおこなわれている政府・与党などの議論には、領海と排他的経済水域の混同がみられる。しかし、わが国沿岸から十二カイリの領海と二百カイリの排他的経済水域は根本的に違う。
領海は、わが国のあらゆる主権がおよび、あらゆる犯罪行為について取り締まることができる。
しかし、排他的経済水域は、国連海洋法条約によって、生物資源、非生物資源、海洋汚染という限定された問題での経済的主権についてのみ、当該国に認められた水域であり、それ以外については、公海とまったく同様のあつかいとなっている。したがって、すべての国の船舶にたいし、自由航行が保障されなければならない。
つまり、密漁やわが国の許可のない海底資源の探査、海洋汚染行為などにたいしては、違法行為として海上保安庁が取り締まることができるが、それ以外については、日本の主権はおよばないということである。
今回の事件についていえば、最初に海上保安庁が「不審船」を発見したのは、領海ではなく、そこから遠く離れた奄美大島の西北西約二百数十キロメートルのわが国排他的経済水域であった。そして、その後の追跡の結果、海上保安庁が船体射撃をおこなったのは、中国の排他的経済水域内であり、奄美大島の西北西約三百数十キロメートルの水域であった。
海上保安庁は、国会では、「外見から外国漁船と判断され、無許可で漁業などをおこなっていたおそれがあるから、事実確認のために、停船命令を発した」と答弁し、発端が漁業法違反容疑であったと説明している。ところが、他方では、「これまでの情報から、相手船にはロケット・ランチャーや自動小銃が積み込まれていると最初から判断していた。だから特殊部隊も出動させた」と説明している。事実、その後の経過を見ると、あきらかに漁船ではないという前提での対応となっている。
つまり、最初から漁船だとは認識していなかったが、漁業法違反で対処したということになる。これはあきらかに矛盾した、説明のつかない対応である。現に、具体的な漁業法違反容疑を特定できていない。
このようなやり方は、国内法上も根拠を欠いているだけでなく、国連海洋法条約など、国際法上も容認されておらず、あやまった対応である。今後、こうした対応はきびしく是正すべきである。
海上保安庁によると、いわゆる「不審船」は、同庁が把握しているだけでも過去二十隻が確認されている。また、これらの「不審船」が漁船の形状はしているものの、国籍不明であったり、船名を詐称していたり、今回のようにロケット砲や自動小銃で武装していることも判明している。このような船舶が、領海はいうまでもなく、排他的経済水域で出没しているということは、わが国の安全と秩序にとって、放置できない。
同時に、その対応は、国連海洋法条約をはじめ、国際ルールを厳格に守ったものでなければならず、とりわけ、日本領海での対応と排他的経済水域での対応は、厳格に区別しておこなわれなければならない。このことは、かつて日本が侵略戦争のあやまりを犯した国であるという歴史的経緯に照らしても、周辺諸国との関係で特別に重視すべきことである。
まず、領海における「不審船」への対応については、海上保安庁法によって、停船、立ち入り検査ができるようになっており、違法行為があれば、これを国内諸法規によって、取り締まることができる。これは領海における主権の行使として、当然である。
その際、相手船舶が抵抗したり、逃亡しようとした場合には、最初はまず音と視覚による停船命令をおこない、それでも従わず武器を使用する場合には、警告のための空砲による威嚇射撃、さらには船首を横切る威嚇射撃、船体にたいする非危害射撃――と十分な手続きを踏んだ段階をおうことになっている。そのうえで、重大凶悪犯罪に結びつく可能性が高いなど、一定の要件のもとで、船体への危害射撃(人に危害を与えても刑事責任を問われない)が認められている。
これは、安易な武器の使用や人への危害を認めたものではなく、その目的は、あくまで停船、立ち入り調査であり、不法行為を取り締まるためにおこなうものである。法の手続きを踏んだ、この厳格な運用を否定するものではない。しかし、拡大解釈や拡大適用は、厳に戒めなければならない。
また、「麻薬の不法取引」、「密入国」、「銃刀法違反」などの犯罪は、それぞれの国内法によって、具体的な犯罪容疑を特定して、取り締まることができるし、現におこなわれている。一昨年、一年間だけでも領海内で不法行為をおこなった船舶三百五十七隻を確認し、二百八十二隻にたいし、警告退去、検挙などの措置をとっている。
このように、現行法によって、基本的には対応できる法体制ができており、新たな立法措置がなければ、対応できないというものではない。要は、海上保安庁が法を踏まえてしっかり警備をおこなうことである。
次に、領海ではない排他的経済水域において、「不審船」への対応をどうするかという問題である。国籍も不明、武器も積んでいるような「不審船」が、排他的経済水域など、周辺の水域に出没しているということは、わが国だけでなく、近隣諸国にとっても黙視できない問題のはずである。しかし、国連海洋法条約では、問題になっている「不審船」のような船舶について、取り決めがあるわけではない。したがって、わが国一国だけの対応で、問題の解決をはかるというのは、国際法上、無理がある。
いま、政府・与党などから、危害射撃ができる範囲を排他的経済水域にまで拡大すべきだという意見がでている。しかし、日本一国だけで、こんなことを強行すれば、周辺国との間で大きな問題となることは必至である。また、わが国自身、海洋国家として、「航行の自由」を享受しており、「不審船」対応ということを口実に、領海外まで領海と同じように扱おうとすることは、結局は、国益に反することになる。
いま日本が重視すべきは、外交的努力である。中国、韓国、北朝鮮、ロシアなど、周辺国と協力・共同して「不審船」などに対処できるよう、協議と連携の体制をとるなど、必要なルールづくりをこそおこなうべきである。そのためにも、北朝鮮との外交ルートを開くことが急務である。
海上における安全、秩序を害する活動や不法行為などを取り締まる警察活動は、第一義的に海上保安庁がおこなうべきであり、この分野で自衛隊の任務を拡大していく方向には反対する。
また、海上保安庁によるものであっても、武器の使用は、十分に抑制的であるなど、国際慣例にかなったものでなければならない。これは、日本があの侵略戦争をおこなった国として、また憲法第九条をもっている国として、特別に重視すべきことである。
さらに、この問題を有事体制づくりに利用することに、わが党はきびしく反対する。
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