日本共産党

2002年1月9日(水)「しんぶん赤旗」

日韓W杯前にソウルで考える

「歴史の過ち」と向き合い真の友好のパスを

教科書、靖国…「障害だらけ」


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プラカードを掲げて日本議員団を待つ張炳黙さん(左)と金成寿さん=ソウル、昨年12月12日(面川誠撮影)

 日本と韓国の若い世代に友好の新時代を引き継ぐ契機になると期待される日韓共催のサッカー・ワールドカップ大会まで五カ月を切りました。しかし、歴史わい曲教科書の検定合格と小泉首相の靖国神社参拝で、日韓関係が急速に悪化した二〇〇一年の経験は、“歴史の過ち”を棚上げにしたままの日韓友好はありえない、という事実を見せつけました。(ソウルで面川誠 写真も)

日本議員団に2人は迫った

 昨年十二月、ソウルで開かれた日韓議員連盟の総会に参加した日本議員団に「元日本軍傷病軍人」の二人の韓国人が訴えました。日本のアジア侵略戦争に駆り出され重傷を負った二人は、日本政府の補償を訴えました。

 張炳黙さん(78)は、体の六カ所に砲弾の破片が残っています。日本議員を待つ間、体感温度が氷点下一〇度を下回る寒風にさらされ、体に鈍い痛みが走ります。「日本政府は奇弁をろうせず補償すべきだ。死ぬまで責任を追及する」

 一九四三年から四五年までニューギニア戦線で生死の境をさまよいました。食料が底を突いた日本軍兵士たちは、死んだ兵士や現地住民の人肉にまで手を出しました。張さんも一度だけ口にしたことがあります。

 「私がいた部隊で生き残ったのは二人だけだ。自分も死のうと思って何度も銃口をくわえた。戦争は英雄の物語ではない。どうして日本政府は、また若者を戦場に送りたがるのか」

 張さんとともに立った金成寿さん(77)は、左翼系の独立運動に参加して拘束された実兄を釈放してやると日本警察に説得されて“志願兵”になり、四四年にビルマ戦線で右腕を失いました。四五年の解放後に北朝鮮に渡った実兄はすでに亡くなり、家族の消息も途絶えました。戦争と祖国分断の痛みは癒えません。

 プラカードを掲げて日本議員団に訴える二人に韓国政府関係者が駆け寄っていいました。「やめてください。もう十分じゃないですか」

 金さんは政府関係者に言い聞かせました。「日本人を恨むつもりはない。私たちを無視する日本政府が理解できないのだ」

元日本兵への初の支援法案

 韓国国会には、侵略戦争に動員された韓国人軍人・軍属に対する生活支援法案と被害真相究明法案が上程されています。六五年の日韓国交正常化の際に対日請求権が「完全かつ最終的に解決」したとされて以来、初めての法的な支援です。

 太平洋戦争被害者補償推進協議会の金銀植事務局長は、「日本は被害の原因を作り出した責任、韓国は被害者を放置してきた責任がある。こうした問題が解決されなければ、公正な日韓関係は築けない」と強調しました。

教科書・靖国友好に暗雲

 昨年の教科書問題と小泉首相の靖国参拝は、日韓友好ムードを一挙に吹き飛ばしました。

 一方で、日韓両国民が力を合わせて“歴史の過ち”を克服しよう、という新しい流れを生み出しました。

 ワールドカップの韓国代表チームが練習する済州島で出会った女子高生、イー・ヒョンジョンさん(16)。選手が宿泊するホテルに駆け付けるほどのサッカーファンです。「日本のイメージ? 歌や映画が好き。共催をきっかけに韓国と日本が協力すれば、アジア全体のイメージもよくなるんじゃないかな」と、屈託のない笑顔で語ります。

 ソウル市の小学校教諭、崔鍾順さん(44)にこの話をすると、「そういう素直で偏見のない心が育つような教育をしたいですね。でも、現実は障害だらけですよ」と、顔を曇らせました。

 歴史わい曲教科書が検定で合格、さらに小泉首相が靖国神社の参拝を強行し、参拝の違憲訴訟を起こした原告を「おかしな人たち」と罵倒(ばとう)する―これらすべてが、マスコミを通じて子どもたちの脳裏に「悪い日本」のイメージを刻み込みます。

 八十四の市民団体が参加する「日本の教科書を正す運動本部」は、近く発足する日韓共同の歴史研究機構に非政府機関(NGO)も関与させ、合意内容を教科書検定に反映させることを目指しています。

 運動本部の梁美康・執行委員長は、「大事なことは、侵略と植民地支配の過ちを直視する“日韓共通の歴史認識”です」と強調します。梁さんは「韓国の教育も単純な反共と反日を植え付けてきた」と批判します。「近現代史の教育は、韓国は被害者だという面だけが強調され、ベトナム戦争への加担など、韓国の過ちには触れません」

日韓の教育者力を合わせて

 “共通の歴史認識”を目指し、韓国の「歴史教師の会」と日本の「歴史教育者協議会」の間で共通教材づくりが進んでいます。韓国側から参加している崔教諭は、「目的は韓日両国民がいっしょに“歴史の過ち”を克服し平和を築くこと」だといいます。

 「私たちには南北韓(朝鮮)の平和共存という切実な課題があります。自衛隊の派兵に熱心な日本政府をみて考えるのですが、日本にとって、平和は本当に大事な課題なのでしょうか」と、崔教諭は問いかけました。

 


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